新人魔女の休職相談(1)
新人魔女のリッカが工房へやってくると、リゼの使い魔であるグリムが大きな欠伸をしながら出迎えた。
「おはようさん。早速やけど、リゼラルブが御冠やで」
リッカは目をぱちくりさせる。
「えっ? 何故ですか?」
リッカが戸惑いを見せると、グリムはニヤッと笑った。
「そら、あんたがいろいろとやらかしとるからやろ」
グリムの言葉で、謁見時のことを思い出す。
(また、あの時のお小言か……)
リッカがげっそりした顔をすると、グリムはケタケタと笑った。
「あんたが来てからというもの、毎日ほんま飽きひんわ」
グリムの言葉にリッカは苦笑いを見せる。ちょうどその時、奥からリゼがやって来た。リッカはすぐさまリゼに謝る。
「リゼさん、謁見の際は失礼致しました」
リゼはむすっとした顔をリッカに向ける。
「全くだ。君は馬鹿なのか? なんだあの演説は。何のために魔道具を作ったんだ?」
リゼの容赦のない物言いにリッカはたじろぐ。
「そ、それはそうなんですけど……でも……魔道具を使って陛下を騙す様なことをするよりは、良かったんじゃありませんか?」
「言い訳無用だ。全く君は……これだから未熟者を使うのは嫌なのだ」
リゼの咎める言葉に、リッカはぐっと息を吞む。リゼの冷たい眼差しに何も言えないでいると、グリムが助け舟を出してくれた。
「まぁまぁ、その辺にしとき」
リゼは不満そうな顔をしている。
「結果オーライやないか」
「結果が良ければ全て良しというわけではないだろ」
リゼとグリムが言い合いを始めてしまったので、リッカはその間に割って入る。
「リゼさんの計画通りにしなかったことは謝ります。これからは気をつけますから、どうか……」
リッカが必死に頭を下げると、リゼは不満げながらも「わかった」と言ってくれた。リッカがほっと息をついていると、リゼが話しを続ける。
「まぁ、先日の件はもう良い。しかし、もう一点君には聞かねばならないことがある」
「な、なんですか?」
リッカが尋ねると、リゼが明らかに冷たい視線を送ってきた。ひやりと背筋が凍る。
「冷凍庫に入っているアレは一体なんだ?」
リゼの鋭い視線がリッカを射抜いた。リッカはビクリとする。工房の冷凍庫に一時保存のつもりで入れた氷精花のことをすっかり忘れていたのだ。
「あ、あれは……その……素材として……」
リッカがしどろもどろに答えると、リゼは呆れたとばかりに盛大にため息を零す。そして、可哀想な者でも見るかの様に哀れみの目を向けた。