新人魔女の疲れる休日(8)
「そんなに薄い布をどうしようと言うの?」
「お嬢様のお気に召しましたそちらの生地とこちらの布を合わせれば、とても品の良い物になりますよ」
仕立て屋は黒生地の上にふわりと薄布を合わせる。当て布をすることで、黒地で重ための印象だった生地がふんわりとした雰囲気に変わる。リッカはその変化に目を奪われた。
「あら、確かに素敵ね」
母が仕立て屋の提案に興味を示すと、仕立て屋はホッと息を吐いた。
「では、こちらの二色でお嬢様のドレスをお作り致しましょう」
「……いえ、少々お待ちになって。こちらの組み合わせも素敵ですけれど、他の色はなくて? こちらの白でないと合わないかしら?」
「いえ、黒に合わせられない色味はございませんので、他の色もお持ちいたしましょう」
仕立て屋が他の色の布を持ってくると、母が手にとる。リッカはそっと母の側を離れると、お茶が用意されているテーブルについた。
(……結局、お母様が決めるのよね。まぁ、そちらの方がわたしは助かるのだけれど)
リッカはほっと息をつくと、出されたお茶に口をつけた。そして、仕立て屋と母の会話をぼんやりと聞くのだった。
仕立て屋が布のサンプルを何種類も黒の生地に当てがい、母が意見を言う。そんなことを何度も繰り返した後、ようやく色味が決まったようだった。母もやっと満足いった様で、リッカが座るテーブルの向かいに腰掛けた。
「貴女は何を呑気にお茶を飲んでいるの?」
「え?」
リッカがお茶に手を伸ばした瞬間、母は厳しい声で言い放つ。リッカはビクリとした。
(お茶くらいゆっくり飲ませてよ……)
内心そう思いつつも、これ以上母の機嫌が悪くなるのは得策ではないので黙っておいた方が賢明だ。
「生地は無事決まったではありませんか」
にへらと愛想笑いを浮かべると、母ははぁとため息を漏らす。
「まだ生地が決まっただけですよ。時間がないと言ったではありませんか。さぁさぁ、ドレスのデザインを決めてしまいましょう」
そう言って母が促すので、リッカは仕立て屋からデザイン画が描かれた紙を受け取った。
(ドレスなんてどれでもいいのに)
リッカはうんざりしている。しかし、そんなことを口にすれば、どんな雷が落ちるか分からない。ここはさっさとデザインを決めてしまうに限る。
(適当に決めてしまおう)
リッカはデザイン画を一瞥すると、無難なデザイン画を一枚抜き取り母に声をかける。
「お母様、わたしはこちらが良いと思うのですけれど……」