新人魔女の疲れる休日(7)
普段はおっとりと優しい母だが、この様なときの母は全くもって容赦がない。反論の余地もないほどだ。
お針子たちが生地を持ってくる。母はその一つを手にとるとリッカにあてた。
「ほら、どうかしら? この生地なら貴女にとても似合うわ」
リッカは当てられた布に手をやる。確かに母が選んだ物だけあって良い質感だとは思うが、普段着ている服とは色味が違う。あてられた布は淡い水色だった。
「でも、わたしこういう色は……」
リッカが戸惑いを見せると母が不満げな顔をする。
「あら? ちゃんと自分の意見があるのなら、どうしてもっと早く言わないの?」
リッカはビクッとして母を見た。母の目には不満が滲んでいる。
「普段から言いたい事があったら言いなさいと言っているでしょう? それなのに貴女ときたら……」
母のお説教が始まってしまいそうで、リッカは慌てて口を開いた。
「で、では黒の生地はありますか?」
リッカが希望を述べると、母は不服そうな顔を見せる。
「黒って、貴女何を考えているの。貴女のその魔女服を誂えるのではなくてよ。社交の場に出るための衣装なの。もっと明るい色になさい」
確かに母の言う通りだが、リッカは黒が一番落ち着くのだ。リッカが口を開こうとすると、仕立て屋の男が割って入った。
「奥様、黒でもこちらはいかがでしょうか?」
仕立て屋が差し出した生地は、美しい光沢と表面に細かい毛羽が生えている物で、美しいツヤが高級感を演出している。
「こちらの生地でしたら、黒でも光沢がとても美しく出るので、ドレスにしても映えるのではないでしょうか? 光の加減で時折煌めくので、華やかさはあるかと」
仕立て屋の言葉を聞きながら、母は生地を手に取り、まじまじと見つめる。その横でリッカは心を動かされた。
(綺麗……)
リッカも生地に手を触れてみる。指先に吸い付く様な手触りだ。
「確かに良い生地ね……。でも……」
母はリッカに向き直る。
「貴女、黒で本当にいいの? 明るい色の方が貴方の年頃には良いと思うけれど?」
母の問いかけにリッカは迷う事なく頷いた。
「わたし、この生地がいいです」
リッカがそう答えるも、母は納得していない様だった。
「そう? でも、黒というのは……」
母が不満そうな顔をする。すると、仕立て屋の男が助け舟を出してくれた。
「では奥様、そちらの黒地の生地にこちらの布を合わせてはいかがでしょう?」
仕立て屋は向こうが透けて見える程薄い生地を差し出す。しかし母は眉を顰めた。