新人魔女の疲れる休日(6)
しばらくすると母が呼び寄せた仕立て屋が到着した。母が日頃から贔屓にしているその男は、職人気質を絵に描いたような気難しい顔で挨拶する。
「スヴァルト様、ご機嫌麗しゅう。本日はどの様なご用向きでしょうか?」
「ご苦労様。早速で申し訳ないのだけれど、主人とこの子の採寸をお願い。近いうちに、私ともう一人の仕立てもお願いする事になるわ」
「かしこまりました。それでは旦那様、こちらへどうぞ。旦那様が終られましたら、お嬢様の採寸をさせて頂きます」
あれだけ渋っていた父は、あっという間に採寸を終えると、結局、デザインや生地選びを母に丸投げして、自分の書斎に閉じ籠もってしまった。
リッカの周りでは、仕立て屋が連れてきたお針子たちが作業をする。リッカに出来ることは大人しく採寸を受けることくらいだ。お針子たちは一様に真剣な顔をしているし、採寸の間ほとんど会話はない。幾度かこうして採寸され服を誂えたことはあるが、何度やってもこの状況に慣れない。
リッカはそわそわと落ち着かない心地でお針子たちの作業が終わるのを待っていた。採寸を終えると次は生地選びだ。リッカは父の様に母に丸投げしようと試みてみた。しかし、母の答えは否だった。
「何を言ってるの。貴女のための服なのだから、貴女が自分で選びなさい」
一蹴されたリッカは仕方なく、生地を選ぶ。その様子を母は嬉しそうに眺めていた。
どの生地の何が良いのかさっぱりわからないと思いながらもリッカが生地を見比べている傍らで、母も夢中で生地を見やる。
時折母は仕立て屋の男に何やら話しかけている。リッカには何を話しているのか分からなかったが、生地を手に職人男と顔を突き合わせて何やら真剣に話し合っている母の様子からして、相当専門的な会話なのだろうという事だけは窺い知れた。
「奥様。この生地などいかがでしょう?」
やがて仕立て屋は何種類かの生地を持ってくるとテーブルにそれらを広げた。母はそれらの幾つかを手にとって吟味すると、仕立て屋に頷いた。
「そうね。これは良さそうだわ」
「では、旦那様の生地はこちらに致しましょう」
「ええ。お願いね。それで、貴女は決まったの?」
母がリッカに話を振ったが、リッカにはどの生地が良いのかわからない。
「えっと……」
口籠もるリッカに母が小さくため息をついた。
「自分の衣装の生地すら選べないなんて、これまで甘やかしすぎたのかしら……」
母は、困ったとばかりに頬に手を当てる。




