新人魔女の疲れる休日(5)
母は幸せそうに微笑んだ。リゼから提案を受けた時も、陛下へ謁見する時も初めのうちは緊張で表情を強張らせていたはずだが、今ではすっかりこの状況を楽しんでいるようだ。対して父の方は、いつでも難しい顔をしている。
「あら、あなた。そんなに難しい顔をしてどうしましたの?」
「……いや……。この様な申し出を受けて面倒事が起こらないと良いと思ってな。……まぁ、王族と縁戚になるに越したことはないのだが……」
母の問いに父が答えると、母はクスクスと笑う。父は益々眉間に皺を寄せた。母はそんな父を楽しそうに見つめた後、リッカに向き直る。
「貴族教育はエルナが我が家へ来たらすぐに始めます。時間が限られているので、きっと厳しくなることでしょう。それでも、お父様の言いつけですからね。貴女もしっかり学ぶのですよ?」
母の言葉に、リッカは表情を引き攣らせる。
「……はい」
小さく返事をしたリッカに母は満足げに微笑むと、父に向き直った。
「あなた、今日はお出かけになりませんわよね?」
「ああ。今日はこのまま読書に耽ろうと思っている」
「あらダメですよ。これから仕立て屋が来ますから」
「仕立て屋? 何故だ?」
「だって、戴冠式には皇太子の婚約者としてエルナのお披露目もあるのでしょう? 養い親となった私たちもその場に立ち会うのではなくて? 私たちのドレスも急いで新調しなければなりませんけれど、あなたは休日にしか家にいないのですよ。今日のうちに生地やデザインを決めてしまわないと、間に合わないではありませんか」
「それはそうだが、今日のところは……」
渋る父に母がニコリと微笑む。
「ダメですよ? あなた」
有無を言わせぬ母の言葉に、あれだけむっつり顔を晒し、家長の威厳を振り撒いていた父は項垂れた。
(我が家一の権力者は、お母様だったのね)
いつもは控えめに父の半歩後ろにいる母が、今日は悠然とスヴァルト家の食堂内に君臨していた。リッカはその様子を目を丸くして眺める。テキパキと父に指示を出す母の姿も、渋々母に従う父の姿もリッカには新鮮に映ったのだ。
(うちの両親はこんな感じの人たちだったのね)
両親のいつもと少し違う様子に、戸惑いつつも、如何にこれまで自分が家族のことを表面上しか見ていなかったのかを痛感する。
リッカがぼんやりと両親のやりとりを見ていると、母がリッカに向き直った。
「何をぼんやりしているの。貴女もこの後採寸があるのよ。早く支度をしていらっしゃい」