新人魔女と精霊のペンダント(2)
「いえ、依頼は既に当家の主より差し上げているはずなのですが……」
女性は困り果てたような表情になる。
「ああ、すみません! ちょっと待ってくださいね」
依頼者の対応をするように指示されてはいたが、客が来ていることを一応リゼに知らせようと、リッカは女性に謝ると急いで奥の部屋へ向かう。ドアをノックしてから開けると、案の定リゼはまだ眠っていた。
「リゼさん、お客様ですよ!」
リッカが声をかけると、リゼはうるさそうに寝返りを打った。起きる気配はない。
「……仕方ないかぁ」
リッカは大きく溜息をつくと、部屋のドアをパタリと閉めた。そして女性のもとへ戻る。
「お待たせしてすみませんでした。どうぞ中へ入ってください」
「あ、ありがとうございます」
恐縮しながら入ってきた女性を椅子に座らせると、リッカはその前に紅茶を置いた。それから少し迷ったが、結局自分の分のティーカップもテーブルの上に置く。
「それで、えぇと……」
「失礼しました。私の名前はエルナ・オルソイと言います。本日は当家主人の使いで参りました」
丁寧に頭を下げる彼女を見て、リッカも同じように頭を下げた。
「リッカです。この魔術工房で助手をしています」
リッカの自己紹介に、彼女は微笑みながら言った。
「リッカ様ですね。よろしくお願いします。ところで、本日、ネージュ様は?」
ネージュとは大賢者であるリゼの称号名である。
「え? あ、はい。リゼさんは……」
口を開きかけて、リッカはハッとした。依頼者にリゼはまだ寝ているなんてことを言って良いはずがない。
「す、すみません! ネージュ・マグノリアは昨日から寝込んでいて、本日はわたしが代理で対応しているんです!」
焦るリッカの様子に、しかしエルナは優しく微笑んだ。
「まぁ、そうなのですね。大丈夫なのでしょうか?」
「はい。あの……病気ではないのです……。ちょっと働き過ぎと言いますか……」
「あら、それは大変ですね。ゆっくりと休んで頂かないと……」
心配そうに眉をひそめる彼女に、リッカは申し訳なさげに俯く。ただの寝不足なんて絶対に口にしないよう気をつけよう。
「ご心配ありがとうございます。それより、依頼の話に移りましょう。ええと、ネージュ・マグノリアから依頼品をお渡しするようにと言付かっておりますが、何か引換証のようなものはありますか?」
「あ、いいえ。そのようなものはありません。ですが、こちらをネージュ様にお渡しすれば良いと伺っております」