新人魔女の疲れる休日(3)
姉のマリアンヌに問われ、それまでずっと黙っていたリゼが静かに口を開いた。
「姉上が今回婚姻の話を持ち出されたのは国政を盤石なものとする為と存じます。つまりは、私と宰相家の娘が婚姻する事で宰相家との繋がりを強くすることをお望みなのでしょう?」
リゼの言葉に、姉は頷く。
「その通りですわ」
「でしたら、この話は受けた方が得策かと思われます」
「……しかしそれでは、其方は侍女を娶ることになるのですよ? 王家の者がそんな……」
マリアンヌの問いにリゼは首を横に振る。
「いいえ。侍女ではありません。宰相家が引き受けてくれると言っているのです。宰相家から嫁いで来れば歴とした貴族の娘ではありませんか。そうであれば、婚姻関係を結んだところで何の問題もありません」
マリアンヌが呆気にとられる。
「……良いのですか? 無理に侍女をお側に置かなくても」
マリアンヌが思わずそう呟くと、リゼは小さくかぶりを振る。
「エルナさんならば、気心も知れているし、何より料理が美味いですから」
その言葉にリッカと母は顔を見合わせた。結局は、母の言った通りなのだ。リゼの言葉にマリアンヌも渋々納得したらしい。マリアンヌは大きくため息を吐いた。
「……何だかお膳立てされていたようで不本意ですが、エルナの件は宰相家にお任せしましょう。ただし、条件が二つあります。まず、エルナには至急貴族教育を施して下さい。期限は来月初めにある戴冠式前日までです。戴冠式と併せて、リゼラルブの立太子礼も行います。そこで、リゼラルブとエルナの婚約を発表します」
マリアンヌの凛とした声に、宰相イドラは無言で頷いた。
「それから、スヴァルト家の次期当主は必ずリッカ嬢であること。リッカ嬢がこの先、他の貴族と婚姻をした際に、家督が他者へ移ることを禁じます。イドラとリッカ嬢の責に於いて、エルナ及び王家を恒久的に支援する事を婚約の条件とします」
マリアンヌがそう言うと、一同は恭しく頭を下げた。
かくして、皇太子妃の件は、ひとまずエルナをスヴァルト家の養女として受け入れることで落ち着いたのだった。
昨日の事を思い出しながら、リッカは運ばれてきたスープに口をつける。
「リゼラルブ様からは、事前にお前がコトを起こすから、それに便乗してくれとだけ頼まれていたのだが、……まさか昨日の愚説がそれだったのか? あの様な物言いしか出来ないとは、本当に情けない。貴族たる者、交渉事くらい華麗にこなしてみせろ」