新人魔女の疲れる休日(2)
「で、ですから、このパイはリゼラルブ様のお気に入りで……それを作れるのが国内ではエルナさんしかいないのです。そのため、エルナさんはリゼラルブ様のお側に必要な方だと……」
リッカの言葉にマリアンヌはピクリと反応した。
「それは……エルナが皇太子妃となる理由になるのかしら? 特別なパイが作れたとしても、それだけのことではなくて?」
マリアンヌが確認するように問うと、リッカは困ったような顔をした。リッカとしては、ダメ押しの一手だったのだが。そんなリッカの様子を見ていた母が堪らずクスクスと笑い出す。
「お母様?」
「うふふ……ごめんなさいね。貴女があまりにも必死だから可笑しくて……。ねぇ、あなた?」
リッカに怪訝な眼差しを向けられ、母が父を見る。父は渋い顔のまま頷いた。
「確かに侍女のパイが美味いからと、それだけで皇太子妃に推薦する訳にはいかないだろう」
「そうですわね。でも、この子の言い分には一理ありますわ」
母は意味深な笑みを浮かべてそう言うと、マリアンヌに向き直った。マリアンヌが少し身を固くする。そんな母にリッカは心配そうな瞳を向けた。母の笑みは何だか悪戯っ子のようだ。
「陛下。娘の拙い言葉では正しくご理解いただけないかもしれません。ですが、婚姻に於いて相手の好みを把握できているということは、とても重要なことなのですよ? もちろん、相手の好みが分かれば上手くいくというものでもありませんが、少なくともお相手の嗜好を把握していれば失敗することも少なくなります」
「……ふむ……」
マリアンヌが曖昧に頷く。
「しかし、趣味嗜好を把握するなど、侍女でもできるではありませんか?」
すかさず反論するマリアンヌに、母は相変わらず楽しそうにニコニコと笑っている。
「ええ、その通りですわ。ですがネージュ様は、……その……他の王族の方とは、違うお暮らしをされているのではありませんか?」
「それは……、確かに」
母の遠慮がちな問いに、マリアンヌは渋々と頷いた。
「今のネージュ様のお暮らしぶりを鑑みるに、ネージュ様はあまり多くの方を周りに置かれる事を好まない方なのだと存じます。でしたら、ネージュ様のお好みを完璧に把握されている方は稀有ですわよ。陛下もお分かりのはずでしょう?」
マリアンヌが言葉に詰まる。そんな様子を見ながらリッカはホッと息をついた。どうやら上手く行きそうだ。
「リゼラルブ。其方はずっと黙っているが、何か意見はないのか?」




