新人魔女の疲れる休日(1)
緊張の一日を終え、翌日の天曜日。リッカは、いつもよりも遅い時間に目を覚ました。昨日はかなり気疲れしたので、父たちのお小言にも耳を貸さず早めに寝たのだが、よほど疲れていたのかずいぶんと眠ってしまったようだ。
リッカは欠伸を嚙み殺しながら起き上がり、着替えをすませる。しかし、気分は爽快だった。
「おはよう、リッカ」
リッカが着替えを終えて食堂へ行くと、既に父と母の姿があった。父は相変わらずむっつりとしたまま、母はやたらと上機嫌な笑みを浮かべながらリッカを迎え入れた。
「おはようございます。お母様、お父様」
「今日はまたずいぶんとのんびりなのね?」
母が笑いながら席に着くようリッカを促す。リッカは素直に頷きながら席についた。そんなリッカに父が声をかける。
「昨日はよく眠れたのか?」
「はい」
「……それはそうだろうな。……まったく、昨日は肝が冷えたぞ」
父が深いため息をついた。そんな父を母はクスクスと笑うと、口元にティーカップを運ぶ。
「申し訳ありませんでした。つい、勢いで……。でも、結果オーライではありませんか。もともと、エルナさんを養女としてお迎えする予定だったのですから」
そうは言ったものの、昨日のマリアンヌ陛下の様子を思い出したリッカはブルリと身震いをする。
結果から言うと、リッカの提案は通った。マリアンヌ陛下はエルナをスヴァルト家の養女とし、皇太子妃とする事を了承したのだ。決めてはやはりあのパイだった。
リッカがエルナを皇太子妃にと推薦し、宰相であるイドラまでもがその提案に乗っかったことで頭を抱えたマリアンヌは、無意識にパイへと手を伸ばした。そうしてパイを口にしたマリアンヌは、その美味しさに目を見開いた。それを見逃さなかったリッカはすかさず話を切り出した。
「そちらのパイは、最近のリゼラルブ様のお気に入りですよ。この国内では今のところ、エルナさんしか作ることができません」
「……そう……なの?」
マリアンヌは驚いたようにパイを見つめた。
「確かにこれまでに食べたことのない味ですけど……何故エルナにしか作れないのかしら?」
マリアンヌは小首を傾げつつ、パイを口に運んだ。優雅さはあるが、実に早いスピードでパイは消えていく。陛下も紅桃茸のパイを気に入ったようだ。
「良いお味でしたけれど、エルナにしか作れないというのが解せませんね。それに、このパイがエルナにしか作れないからと言って、それが何だと言うのです?」