新人魔女の重大ミッション(8)
間髪入れずに問われ、それまで饒舌だったリッカの口は一旦閉じて固まった。ここで本心を言ってもいいのだろうか。そう躊躇したものの、ここまできたら勢いだ。リッカはマリアンヌの目をしっかりと見つめた。
「それは、わたしがのんびりと森で過ごす事を望んでいるからでございます」
リッカの言葉にマリアンヌはピクリと反応する。その目は鋭く、明らかに機嫌が悪そうだ。しかし、ここで怯んではいけないと自分を奮い立たせたリッカは言葉を続ける。
「わたしは利己的な人間です。自身が興味のある魔法の勉強や、素材の研究にしか関心がありません。そんなわたしでは、リゼラルブ様の幸せのために心を砕くことなど到底できないと存じます。それどころか、きっと皇太子妃としての務めすら満足に果たせないでしょう」
リッカの言葉にマリアンヌは厳しい表情を崩さない。リッカはグッと拳に力を込める。これが最後の一押し。そう思い、リッカは背筋を伸ばした。
「しかし、エルナさんならリゼラルブ様の幸せのために心を砕くことができます。きっとリゼラルブ様を幸せに導くことができると存じます。もしも強力な後ろ盾が必要と仰るならば、当家が彼女の後ろ盾になります! 彼女に強力な魔力をお望みならば、わたしが彼女の力となります!」
リッカの申し出に、マリアンヌは信じられないと言った様子で目を丸くする。沈黙が部屋を支配した。マリアンヌが静かにリゼを見る。リゼは何も言わず、ただ黙って目を伏せている。マリアンヌは小さく息を吐き出した。
「スヴァルト宰相。ご息女はこう言っているが?」
マリアンヌが静かに問う。リッカも祈るように父を見つめる。父イドラは、大きなため息を隠そうともせずついた。
「女王陛下。不肖な娘が大変失礼を致しました。ですが、愚女のこの度の申し出は的を得ているやも知れませぬ。リゼラルブ様の幸せと国政を重んじるならば、利己的な当家の娘では荷が勝ちすぎると存じます」
「では、宰相家は王家への輿入れを断ると?」
「いえ、そうは言っておりません」
「では、どうするのだ?」
マリアンヌが微かに声を上げる。しばらく沈黙が流れた後、イドラが口を開く。
「もしも、陛下のお許しをいただけるのであれば、先ほど名の上がっていた陛下の侍女を当家の養女として迎え入れ、その上で王家へ輿入れさせるということで、いかがでしょうか?」
イドラの発言にマリアンヌが驚愕する。
「エルナを……養女に……ですって?」