新人魔女の重大ミッション(7)
だけど、ここで引いてしまってはいけない。リッカは意を決してマリアンヌに告げる。
「確かにエルナさんは強力な魔力の使い手ではありませんし、頼れる後ろ盾もありません。ですが、エルナさんはそれらよりも優れたものをお持ちです」
「それは?」
「人を思いやれる優しさと、人を尊敬し受け入れることの出来る心の広さです。皇太子妃には、そういった心の豊かさが何よりも必要ではないかと存じます」
「ほお? エルナは心豊か故に、貴女よりも皇太子妃に相応しいと?」
「はい。それに……」
「リッカ……ッ!」
父が堪らずと言った様子で制した。その声にはとてつもない緊張感が含まれている。母も顔面蒼白で娘を見つめていた。リゼだけが諦めの境地とでも言わんばかりの顔で成り行きを見守っている。
マリアンヌは表情を変えることもなく黙ってリッカを見つめていたが、やがてスッと目を細めた。
「よい。続けなさい」
「はい。恐れ入ります。何より、エルナさんはリゼラルブ様の事をとても大切に想われています」
リッカはマリアンヌの視線をしっかりと見返して告げる。
「リゼラルブの事を大切に想っている?」
マリアンヌはチラリとリゼに視線を向けた。リゼは何も答えない。リッカは一心に言葉を紡ぐ。
「はい! 例えばこちらのパイですが……」
リッカはおもむろにテーブルの上のパイを指し示した。紅桃茸のパイだ。そんなリッカにマリアンヌが眉を顰める。
「パイ?」
マリアンヌはパイを見ると、何かを考えるように目を細めた。リゼは相変わらず何も言わない。リッカは一呼吸置いて続きを話し始める。
「マリアンヌ陛下は、リゼラルブ様が甘いものがお好きだとご存知でしたか? わたしは全く存じ上げませんでした」
マリアンヌは何も言わない。ただ黙ってリッカを見ているだけだ。
「わたしはリゼラルブ様のお側に居ても、お好きなものすら存じ上げず、リゼラルブ様が何を考え、どのように行動なさるのか見当もつきません。ですが、エルナさんはご存じなのです。リゼラルブ様の事を考え、リゼラルブ様が心穏やかに日々を過ごされるようにと、いつも気遣っていらっしゃいます」
マリアンヌは黙ったままだ。リッカは更に続ける。
「侍女なのだからそれくらい当たり前とお考えかもしれませんが、それはエルナさんがリゼラルブ様のことをきちんと考えて行動されているからこそだと存じます。その点、わたしではリゼラルブ様に何もして差し上げられないのです」
「何故?」




