新人魔女の重大ミッション(4)
「そう。宰相の領地の茶葉はどれも素晴らしいものね」
陛下はチラリと木箱へ視線を向けただけでそう言う。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。ご愛用頂ければ幸いです」
父は口元だけの笑顔でそう答えた。父の笑顔に陛下もニコリと微笑みで返すと、すぐに別の話題を切り出した。
「さて、ではお茶を頂きながら本題にうつりましょうか」
リッカはピクリと肩を揺らす。いよいよ本題に入るようだ。陛下の雰囲気がガラリと変わったのをリッカは感じた。陛下は笑みも浮かべず、冷たい視線をリッカに送ると口を開く。
「貴女がリッカ嬢ね?」
陛下の言葉にリッカはぎこちない笑顔のまま頷いた。母が心配そうにこちらを見ているのがわかったが、気付かない振りをする。
「ご挨拶が遅くなりました。マリアンヌ女王陛下。お初にお目にかかります。宰相イドラ・スヴァルトが娘、リッカと申します。この度は王宮へのお招き、誠に光栄にございます」
席を立ち、礼をしながら挨拶をしたリッカをマリアンヌはじっと見つめる。
「あら。私の名前を知っているのね」
「はい。リゼさ……リゼラルブ様と、現在工房にみえている侍女のエルナさんからマリアンヌ様のお話を伺ったことがございますので」
「なるほど。人付き合いの下手なリゼラルブが貴女の話はよくするものだから、一体どんなお嬢様なのかしらと思っていましたが、想像していたよりもずっと落ち着いているのね」
マリアンヌの言葉にリッカは困ったように微笑んだ。リゼは一体どんな話をしているのだろうか。マリアンヌの隣に座るリゼに視線を送ると一瞬視線が重なったが、リゼはすぐにふいと視線を逸らしてしまった。これはあまり良くないことを吹聴されているかもしれない。リッカはため息をつきたくなる気持ちをグッと堪えた。
そんなリッカをマリアンヌはじっと観察するように見ている。射抜くような鋭い視線に気がついたリッカは、一瞬たじろぎそうになったがそれを持ち前の気力でなんとか持ちこたえ、笑みを貼り付ける。
「今日、貴女をお招きしたのはね、一度お会いしてみたかったからなの。貴女は、リゼラルブとの婚約の話は聞いているかしら?」
「……はい」
リッカは内心の動揺を悟られないように短く答えた。リッカが頷くのを見たマリアンヌは満足そうに微笑むと言葉を続ける。
「聞くところによると、貴女はリゼラルブの工房に勤めているそうじゃない? このお話をする前からご縁があったなんて素敵なことね」