新人魔女の重大ミッション(3)
父は母をエスコートしてリッカの前を歩く。リッカはその後ろを粛々とついて行く。すると、前方に人影が見えてきた。
「女王陛下、リゼラルブ様」
父がそう言って礼をする。母もそれに続いた。リッカも慌てて礼をした。
「よく来てくださいました。急に呼び出してしまいごめんなさいね」
陛下が優しい微笑みを向けると、父は無感情に答える。
「いえ、陛下のお呼びとあらばいついかなる時も馳せ参じる所存です」
「まぁ、それは頼もしいわ」
陛下は朗らかに笑った。その笑顔は柔らかく優しい感じがする。リッカは王宮へ来たのは初めてである。女王陛下を実際に目にするのも初めてだが、想像していたよりも気さくな人物のようだ。陛下がリゼに視線を送ると、リゼは頷いて口を開いた。
「部屋にお茶を用意させております。いかがですか?」
土色に染まった髪を短く刈り上げたリゼは、今日はしっかりと王子然としている。いつもとのギャップにリッカは笑い出しそうになるのを、肩を小さく震わせただけでなんとか堪えた。しかし、リゼはリッカの変化に気が付いたようで、笑顔のままでリッカに鋭い視線を送る。そんなリゼに冷や汗をかきながら、リッカは小さく微笑んだ。
リゼに案内された部屋は陽当たりのいい角部屋だった。この部屋は王家がプライベートで使っている部屋のようだ。部屋の中には豪華な応接セットが置かれていて、テーブルも椅子も座り心地の良さそうなもので統一されている。部屋の隅には大きな暖炉があるが、今は火が入っていなかった。
リッカ達が部屋に入ってすぐに、数人の侍女がお茶とお菓子を運んできてくれた。侍女達は陛下の指示でテーブルにお茶とお菓子を並べる。テーブルにはあの紅桃茸のパイも並んだ。それを見た瞬間、リッカは侍女の一人を見つめる。侍女の髪には星型の髪飾りが煌めいていた。エルナである。エルナは下がる際に、チラリとリッカに視線を送り、小さく微笑みかけて部屋を出て行った。
「どうぞ。お掛けになって」
陛下がそう言ってソファに腰掛ける。両親もそれに倣って席に着いた。リッカも遅れないように席に着く。全員が席に着くと、父が口を開いた。
「女王陛下、本日はご挨拶の品として我が領地で生産されている茶葉をお持ち致しました。どうぞお納めください」
父がそう言うと、控えていた侍女が木箱を持って進み出る。木箱の中には翡翠のような青磁の茶器が収められていた。茶葉はほんの一握りばかりが詰められている。