新人魔女の重大ミッション(2)
その後リゼの使役獣で屋敷まで送ってもらうと、予想通り母親が大騒ぎをしていた。それから、謁見に着て行くドレスの準備が始まったわけだが、リッカはいつもの魔女服を希望した。しかし、それは許されるはずもなく、母主導のもと、リッカは何着ものドレスを着せられることになったのだった。
そして今に至る。リッカは鏡の中の自分をもう一度確認して覚悟を決める。
「よしっ! 行きますか」
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、リッカは部屋を出た。
門前には、正装をした両親を乗せた馬車が待っていた。リッカが馬車に乗り込むと母から声がかかる。
「あなた何を着けているの!?」
母の第一声にリッカは苦笑する。母の視線はリッカの首元に注がれていた。母は昔からお洒落にうるさい人だから仕方がないだろう。
「これはリゼさんの指示だから、今日は着けていないといけないのです」
リッカがそう答えると、母のトーンが少し下がる。
「ま、まぁ! ネージュ様からの贈り物なの!? それならば仕方がないわね。でも、そのドレスにはちょっと似合わないんじゃなくて? それを身につけるつもりがあったのなら、ドレスを選んでいるうちに言って欲しかったわ」
母は諦めたようにため息をつく。しかし、母がため息をつくほどチョーカーが悪目立ちしているとはリッカは思っていない。あくまで母の美的感覚の問題である。リッカは母を宥めるように微笑む。そんな母娘のやりとりを意に介さないように父は目を閉じ腕を組んで座っている。リゼとの密約を考えると、父も気が気ではないのかもしれない。リッカは父にチラリと視線を投げた後、母の止まらないおしゃべりに気のない相槌を打つのだった。
馬車は王都の中心を抜け、王城へとひた走る。やがて、馬車は大きな門をくぐり抜け城の敷地内へ入った。馬車はそのまま城内を走り、やがて速度を落とす。馬車が止まると扉が開かれた。先に父が馬車を降りるとリッカに手を差し伸べる。リッカは素直にその手をとり馬車を降りた。
城の庭園では花が咲き乱れ、その間を縫うように整備された小径が城門から続いていた。手入れの行き届いた庭木からは、小鳥のさえずりが聞こえてくる。その庭園の中央に位置する建物は荘厳な佇まいでそこに建っている。国王陛下が執務を行う執務室などがある建物だそうだ。
馬車の中ではうるさいくらいに饒舌だった母が緊張した面持ちで降りて来た。その立ち振る舞いは、さすがは淑女という様だ。