新人魔女の雪の日のおやつ(8)
エルナの口撃にリゼはついに折れた。リッカとエルナは心の中でガッツポーズをする。二人は顔を見合わせて笑った。
「そこまで言われてしまったら……仕方ないですね……では、少しだけ」
リゼは諦めたように笑うと、テーブルにつく。そして、エルナが用意した目の前のパイに視線を落とすと、ゴクリと喉を鳴らした。大きく深呼吸をしてから、まずは小さくひと口を口に運ぶ。すると驚いたように目を見開いた後、二口目三口目と無言で食べ進めていく。あっという間に皿を空にしたリゼは興奮気味に尋ねる。
「美味しい……とても美味しいですね。エルナさん、これは本当に紅桃茸なのですか?」
「はい! そうなのですよ。私もビックリいたしました。リッカ様にいただいた紅桃茸はとても香りが良くて甘いのですよ」
そんなエルナの言葉にリゼはさらに興味を持ったようだ。
「何故だ? 紅桃茸がこれほど甘いとは、どんな魔法を使ったんだ?」
リゼの言葉に、リッカは苦笑いをこぼした。
「いえ、特に魔法は使っていません。森で採取した物をエルナさんにお渡ししただけで……」
リゼは納得いかない様子で首を傾げる。それから、エルナに目配せをしてお代わりを要求する。エルナもすぐに空いた皿に新しいパイを乗せた。リゼはそれを大きくガブリと頬張る。
「こんなにも美味しいのに、あの紅桃茸のはずないではないか?」
リゼの問いにリッカはクスクスと笑う。
「いえ。本当に森で採取しただけの紅桃茸なのですよ。普段と違うのは採取した条件がいつもと違うからです」
リッカが甘い紅桃茸は雪の日にしか収穫できない事を話すと、リゼとエルナは驚いていた。雪の日は外に出ない。それが当たり前のこの国では、大賢者であっても知らないことがあったようだ。リゼは興味深そうにパイの中の果肉をひとかけら抜き出すと、しげしげと眺めてから口に入れる。
「これが雪の日にしか食べられないとは……」
リゼはブツブツと呟きながら、今度は紅桃茸のジャムをたっぷりと乗せてパイを食べる。随分と気に入ったようだ。
「エルナさん。これは明日も食べられますか?」
「頂いた分を全て使い切ってしまったので、明日は……」
「そうか……それは残念だ」
リゼはガッカリと肩を落とした。そんなリゼの様子に、リッカは苦笑する。
「そんなに気に入られたのでしたら、もう少しお譲りしますよ?」
「本当か!?」
リッカが頷くと、リゼは満足そうに微笑む。
「よし! これを明日の手土産にしよう」




