新人魔女の雪の日のおやつ(6)
あらかじめ作っていた生地で紅桃茸を包み、オーブンに入れた。あとは焼けるのを待つだけだ。
「パイが焼き上がるまでにジャムを作りましょうか」
「ジャムですか?」
リッカが不思議そうに尋ねると、エルナはニコリと笑う。
「はい。この紅桃茸を使ったジャムですよ」
鍋に水を張り、その中に紅桃茸と砂糖を入れる。そして火にかけてしばらく煮立たせたあと火から下ろして、蒸らすように混ぜながら冷ますのだ。
「リッカ様。混ぜるのをお願いしてもよろしいですか?」
「もちろんです!」
リッカはエルナから木ベラを受け取ると、鍋の中身をゆっくりとかき混ぜる。煮詰められて濃密になった甘ったるい香りを思いっきり吸い込む。腹の虫が我慢しきれず、ぐぅーっと鳴ってしまった。
「ふふ……リッカ様ったら」
エルナが堪えきれない様子でクスクスと笑った。リッカは頰を染めて苦笑いをこぼす。
それからしばらく鍋の中身をかき混ぜながら冷ましていくと、色がだんだんと濃くなってきた。まるで紅桃茸本来の色を取り戻したかのような紅みを帯びた色をしている。まさか、辛味も戻ってきてしまったのだろうか。だとしたらとても残念だ。リッカがそう思っていると、エルナも鍋の中を覗き込んで困惑の表情を浮かべる。
「なんだか、色が……味見をしてみましょうか」
リッカはジャムをひと匙すくい取ると、ゴクリと唾を飲み込む。もしもの事を考えて、エルナは水を準備する。
「では、いきます」
リッカは緊張した面持ちで匙に口をつけた。その瞬間、リッカの目がカッと見開く。そんな反応にエルナが驚いてビクッと肩を震わせた。
「え……お……お水……お水飲みますか?」
差し出されたカップに首を振り、リッカは口元を押さえる。それからたっぷりと時間をかけて飲み込むと、ほぅと息を吐き出した。
「これは……なんて言ったらいいのでしょうか……」
「リッカ様?」
心配そうにエルナが覗き込むと、リッカはぱくぱくと口を動かした後、ギュッと目を閉じる。
「すごい……。なんて美味しいんでしょう」
うっとりとした表情でリッカは呟いた。エルナも味見をしてみると、砂糖の甘さと紅桃茸の甘酸っぱさが絶妙なバランスで混ざり合い、何とも幸せな気持ちになった。「美味しく出来ました」と満足そうに頷く。どうやら。ジャムの出来上がりは上々のようだ。
「後はパイが焼けるのを待つだけですね」
「はい!」
パイが焼きあがる頃になると、工房中に甘く香ばしい匂いが充満した。