新人魔女の雪の日のおやつ(5)
リッカは思わず顔が緩んでしまった。エルナはというと、目を見開いてキラキラとした瞳でリッカを見つめていた。
「リッカ様……これは……」
「ね? 美味しいでしょう? 今回は香りも良くて最高です」
リッカが問いかけると、エルナはこくこくと首を上下に振った。言葉にならないほど感動しているようだ。そんなエルナの反応にリッカは嬉しそうに微笑んだ。この紅桃茸の美味しさを共感できる人に出会えたことがとても嬉しかったのだ。
「こんなに甘くて美味しい物が、あの紅桃茸だなんて、まだ信じられません」
エルナは興奮気味に言うと、紅桃茸をもう一口食べる。そして、先程よりもさらに嬉しそうな表情で笑った。
「リッカ様。私、この紅桃茸でおやつを作りたくなりました! もう少し頂くことは出来ませんか? 今日のお茶請けにこの紅桃茸を使いたいのです」
「大丈夫ですよ。まだたくさんありますから。ですが、その……」
リッカは恥ずかしそうに少し言い淀む。そんなリッカの態度にエルナが首を傾げていると、リッカは思い切ったように口を開いた。
「あの……できたら私にも紅桃茸のおやつを頂けませんか? このままでも美味しい紅桃茸がどんなおやつになるのか、私も食べてみたくなりました」
その言葉に、エルナはにっこり笑う。
「もちろんです! すぐに取り掛かりますね!」
エルナはリッカから紅桃茸を預かると、いそいそと準備を始めた。どうやら相当気に入ったらしい。鼻歌まで歌っている。そんなエルナの様子にリッカはクスクスと笑ったのだった。
エルナは紅桃茸の軸の部分を切り取り皮を剥ぐと、果肉をそのまま細切りにする。切った紅桃茸をフライパンで軽く炒める。バターの溶ける匂いと甘く香りたつ紅桃茸の焦げる香ばしい香りが漂うと、思わずお腹が鳴りそうな気がした。リッカはごくりと生唾を飲む。
エルナが火を消したタイミングでリッカが口を開く。
「もしかして完成ですか?」
エルナは優しく微笑み、首を振る。
「まだですよ」
「そんな……こんなにいい匂いがしているのに、まだお預けだなんて……」
リッカは絶望的な表情を浮かべる。そんなリッカにエルナはクスクスと笑って見せる。
「今日は寒いのでポットパイを作ろうと思って生地を寝かせていたのですが……」
「パイですか!?」
リッカは思わず前のめりになる。そんな様子にエルナはクスクスと笑いながら頷いた。
「はい。あとは焼くだけですから、もう少しお待ちくださいね」
「楽しみです!」