新人魔女の雪の日のおやつ(4)
エルナは思わず目をぱちくりさせた。どうやらこの形の紅桃茸を見るのは初めてのようだ。
「これ、紅桃茸です」
「え? これが紅桃茸ですか? だってアレは……」
リッカの言葉にエルナは目を丸くした。
「氷精花も目的だったのですが、今日、森に入った第一の目的は、この紅桃茸なんです。この形は雪の日にしか採れないので貴重なんですよ」
「確かにその形は見たことがありませんけれど。でも、紅桃茸なら森に採取に行かずとも、市場で手に入れることができるのではないですか?」
「まぁ、普通の紅桃茸ならそうなんですが。これはちょっと特別なんですよ」
エルナの疑問にリッカが答えると、エルナは首を傾げた。そんなエルナにリッカはニマニマと笑いながら答えた。
「エルナさん。この紅桃茸、ちょっと食べてみませんか?」
「えっ?」
リッカは採ってきた紅桃茸をさらにもう一つ鞄から取り出して見せた。
「とても美味しいんですよ。せっかくなので、どうでしょうか?」
「……でも。紅桃茸って、香辛料として使われるあの紅桃茸ですよね? 私、あの辛さはとてもじゃ無いですけれど……」
エルナは言いにくそうにしながら首を横に振るが、リッカはにっこりと笑い、さらに紅桃茸をぐっとエルナに差し出した。
「でも、一口だけ! 騙されたと思って一口だけでも食べてみませんか? 絶対に美味しいですから」
エルナは困った顔でリッカと紅桃茸を見比べていたが、やがて恐る恐る首を縦に振った。リッカの強めの押しに根負けしたようだ。
リッカは嬉々として、紅桃茸の軸をナイフで落とす。すると、つるりと皮が剥がれる。それと同時に、中からトロリとした透明な果汁が溢れ出てきた。香りも甘くていい匂いがする。
リッカは紅桃茸の白い果肉を丁寧に一口サイズに切ると、フォークで刺してエルナの口元に差し出した。
エルナは口を小さくパクパクとさせて、食べるか食べないか躊躇っているようだ。まるで、初めて人に餌付けされる雛鳥のような反応だ。リッカはそんなエルナをにこにこと笑いながら急かす。やがて、エルナは決心したように紅桃茸をパクリと口に入れた。途端に目を見開く。その瞬間、エルナの表情がぱぁっと明るくなった。
リッカは満足気に頷くと、自分の口にも紅桃茸を運ぶ。ぷちっと口の中で弾けた果汁の甘酸っぱさと濃厚な香りに、リッカは思わず目を細めた。今回の紅桃茸はアタリだ。いつもよりも甘味も香りも強く感じるので、とても贅沢な気持ちになれる。