新人魔女の雪の日のおやつ(3)
「どうぞ。蜂蜜とレモンを入れてあるので、身体が温まりますよ」
「わぁ! ありがとうございます。いただきます」
エルナが差し出したカップからは湯気が立っている。蜂蜜とレモンの良い香りがリッカの鼻をくすぐった。カップを両手で包んで掌を温めながら、リッカはお茶を飲む。体の芯からじんわりと熱が広がっていく。一口飲んでみると、ほんのり甘くて優しい味がした。身体が冷えていたのでとても美味しく感じる。飲み終わる頃にはカップを持つ指先までぽかぽかと温まっていた。
リッカがお茶を飲み干したところでエルナが声をかける。
「おかわりをお持ちしますね」
そう言って立ち上がったエルナは、もう一度厨房へ向かおうとする。その後ろ姿にリッカは思い出したように声をかけた。
「あ……そうでした! エルナさん、冷凍庫をお借りしてもよろしいですか? 素材の保管に使いたいのです」
リッカが尋ねると、エルナは驚いた顔で振り返る。
「え? 素材の保管にですか?」
「はい。本当は雪の中がいいのですが、外はさすがに……」
窓の外に目をやったリッカは、思わず身震いをしてしまう。一度温まった体が、雪を見て一気に冷える気がした。そんな仕草にエルナはクスクスと笑う。
「どうぞお使いください。ネージュ様には秘密にしておきますね」
「ありがとうございます」
リッカは笑顔で礼を言うと、エルナについて厨房へ向かう。エルナがテーブルの上にお茶の用意をしている間に、リッカは氷精花を鞄から取り出して冷凍庫へ入れる。
「ちなみに、どんな素材をお持ちになったのですか?」
お茶のセッティングを終えたエルナが尋ねると、リッカはニッと笑って、エルナにも冷凍庫の中が見えるように少し場所を開けた。扉の中を覗き込んだエルナは、思わず感嘆の声を漏らす。
冷凍庫の中は、小さな箱庭のような光景になっていた。花弁の一つ一つが光を放ち、キラキラと輝いている。角度を変える度に輝きが増して見えるので、まるで宝石のようだ。
「これは?」
エルナが尋ねると、リッカは得意気に言う。
「氷精花です。雪の日にしか咲かない花なんですよ」
リッカの言葉に、エルナは驚いていた。
「ではリッカ様は、この花のために雪の中、森に入ったのですか?」
エルナが尋ねると、リッカは頷く。
「それから、これのためです!」
リッカは冷凍庫の扉を閉じると、次に鞄から紅桃茸を取り出した。ぷっくりとしたそれは本来の紅色ではなく、うっすらとピンク色になっていた。