新人魔女の雪の日のおやつ(2)
氷精花はその名の通り、空気中の水分を凍結して結晶化させた氷の花を咲かせる植物で、とても繊細で雪の中でしか咲かず、枯れやすい。そのため、こちらも雪の日でなければ採取できない。
美しいブルーの花弁が透明で、まるで水晶でできているかのように見える。その花の中央には綿帽子のようなふわりとした小さな白い花が咲き、その周りを結晶の花弁が包み込んでいる。
その花弁には治癒力を高める効果があるので、主に止血剤の原料として用いることができる。また、茎は鎮静剤として使うことができ、乾燥させて粉末薬として服用する。葉は煮詰めて茶にすることで癒しとヒーリング効果が得られる。
しかし、氷精花は繊細で儚い植物だ。採取の仕方を誤るとすぐに枯れてしまうため、採取する際は細心の注意が必要であった。もちろんリッカもその辺りは重々承知しているので、細心の注意を払って採取を行った。
氷精花は採取してから四時間以上経つと枯れてしまうので、急いで戻らなければならない。二つのレア素材が採取できたので、リッカは上機嫌で歩く。しかし、浮かれたままではいられない。このあと、また雪が降り始めるからだ。雪が降る前に戻れるように、少し歩みを早めた。
雪が強く降り始めた。風が吹く度に、周囲の木々から一斉に白い羽毛のような雪が舞い降りてくる。そんな雪の幕を避けながら工房の扉前にたどり着いたリッカは、防寒のために着ているマントに積もった雪を払ってから、コンコンと扉をノックした。
「はい?」
ガチャリと扉を開けて不思議そうな顔を覗かせたのは、エルナだった。こんな雪の日に人が訪ねて来るとは思っていなかったのだろう。
「まぁ、リッカ様。どうされたのですか? 今日は雪の日なので、お仕事はお休みのはずでは……?」
「おはようございます。エルナさん。ちょっと素材採取で森へ来たのです。それで……」
「こんな日に? 森へ? とにかく中へどうぞ。外は寒いですから」
エルナはリッカを招き入れて工房の扉を閉めた。
「すぐにお茶の準備をしますね。温かい物を飲んで、少し休んでください」
「ありがとうございます」
リッカはエルナに礼を言ってから、マントを脱いだ。防寒のためにマントを羽織ってはいたものの、特別厚着をしていたわけでは無いので、体は冷え切っていた。工房内の暖かな空気に思わずホッと息を吐く。
窓の外は雪がますます強くなってきていて、これ以上降れば視界が白一色で何も見えなくなるだろう。