新人魔女と師匠の共同研究(8)
リッカは鞄の中から瓶を取り出し、机の上に置いた。
「わたし、蜜の採取に成功したと思うんです」
中には虹色に輝く液体を溜め込んだスポイトが収められている。それを確認したリゼは、すぐにでも研究室に戻りたい気持ちをぐっと堪えた。
「どうやって採取したのだ? 君は魅了されなかったのか?」
「魅了はされましたが、フェンに助けてもらいました」
リッカの回答に、いつもは無表情なリゼの顔に驚きの表情が浮かぶ。そんな珍しい表情を見たリッカはクスクスと笑う。
「何を笑っている?」
ムッとした顔でリゼが尋ねると、リッカは悪戯っぽく笑ったまま答える。
「だって……リゼさんのそんな顔、初めて見ました」
そう言われたリゼはハッとした表情を一瞬見せたが、すぐにいつもの仏頂面に戻った。
「そんなことはどうでもいい」
リッカは再度頬を緩ませてから小瓶を指して言う。
「それは、属性魔力を判定しようと思って採取したのですが、ひとまずリゼさんに預けますね」
「……いいのか?」
「構いません。必要であればまた採取すれば良いのです。ですがリゼさん? 今度は魅了されないよう十分気をつけてくださいね」
「そんなことは言われなくても分かっている。しかし、本当に君は一体どうやってこれを採取したのだ?」
リゼの疑問に、リッカは苦笑いを浮かべながら答える。
「さっきも言いましたが、わたしも魅了されかけたんです。でもどうやら、フェンは虹の雫に魅了されないみたいなんですよ」
「そうか……使い魔か……」
リゼは何やら考え込んでいる。それから何かをブツブツと呟いていたリゼだったが、やがて一つの結論を導き出したようだった。
「使い魔は魔力体だからかもしれないな……。虹の雫の魔力を吸収しているのだろう」
「え? 魔力体?」
リッカはリゼの言葉に驚き、フェンを見つめる。リッカの視線に気づいたフェンが首を傾げた。リッカはそんな使い魔の頭を優しく撫でてやる。気持ちよさそうに目を細めている姿がとても可愛い。
「フェンは狼じゃないんですか?」
「使い魔は、魔力を元とする生命体だから、普通の生物とは違う」
「そうだったんですね……」
リッカは改めてフェンを見る。確かに普通の動物よりも明らかに能力が高そうだとは思っていた。
「さて……残念ながら私はまだ研究成果を得られていないが、君は? どんな成果があったか聞かせて貰おう」
リゼの言葉にリッカは頷く。と言っても、リッカ自身も大した成果は挙げられていないのだが。