新人魔女と師匠の共同研究(7)
しかし、答えが分かるはずもない。リッカは少し考え込んでから首を振ると、瓶に栓をして鞄の中に入れた。
「わたしたちだけで考えていても分からないわ。属性判定とか毒判定とか、色々とやりたかったけど、仕方ない。一度リゼさんに報告に行きましょう」
どうやら自身だけでは、素材解明は難しいと判断したリッカは、道具類を鞄へ片付けて、リゼの元へ向かった。リゼのいる実験室へと足を踏み入れる。
「リゼさん」
リッカが声をかけるが、リゼは集中しているのか返事がない。
「リゼさん?」
リッカがもう一度声をかけると、ようやくリゼが気づいたようで視線を向けてきたが、その目はどこかぼんやりとしていた。手に虹の雫を持っている。
「どうしたんですか?」
リッカは心配そうにリゼに問いかけた。リゼは口をパクパクと動かし、何か言おうとしているようだったが、上手く言葉が出てこないようだ。リッカに問いかけられても、ジッとこちらを見つめるだけで何も答えられない。
そんな様子のリゼを見て、リッカはもしかしてと思い当る。
「フェン、お願い!」
リッカの鋭い指示に瞬時に反応した使い魔は素早くジャンプをすると、ぼんやりとするリゼの手から花を易々と奪い取り、ポチャンと花を管理していた水の中へ戻した。
そのうちにリッカは、リゼの背中を押して研究室を出る。少しでも虹の雫から離れた方が良いとの判断からだ。
「もしかして……魅了されました?」
リッカにそう問いかけられても、リゼは首を横に振るばかりである。しかし、リッカの目には、虹の雫に向かってフラフラと研究室へ戻ろうとしているリゼの姿が映っているのだ。
「とにかく一度ここを離れましょう」
そう声をかけても動こうとしないリゼを引っ張り、リッカはリゼの執務机まで連れてきた。それからもう一度問いかける。
「リゼさん? 花に魅了されましたよね?」
すると、ようやく正気に戻ったのか、リゼは大きく息を吐き、頷いた。
「ああ……」
弱々しい声ではあったが、肯定の返事が返ってきて、リッカはホッと安堵の息を漏らす。
「どうして花を手にしていたのですか?」
リッカの問いに、リゼは先程の出来事を説明する。 どうやらリゼは虹の雫の蜜を採取しようとしていたらしい。リゼもリッカ同様に虹の雫を水の中で管理しているのだが、蜜の採取をしようとして水から花を出したところで魅了されてしまったようだ。運良くリッカが来て良かったと、珍しくリゼはリッカに心から感謝した。