新人魔女と師匠の共同研究(5)
虹の雫の効果や特性を知るには、虹の雫自体の性質と魔力の性質の両方を調べる必要があるだろう。虹の雫の性質を調べるのは骨が折れそうなので、先ずは魔力の性質から調べようとリッカは思った。
鞄から属性判定用の魔道具を取り出す。これで虹の雫の属性魔力を判定するつもりなのだが、リッカは瓶の中の花に視線を向けると、腕を組んでじっと考え込んでしまった。
素材の一部をセットすることで魔力の属性を判定するこの魔道具では、虹の雫から花弁や茎などの花の一部をどうしても切り取らなくてはならない。しかし、リッカは貴重な素材である虹の雫に傷をつけたくなかった。
どうしたものかとリッカは考え込む。主が動かなくなったので、フェンが心配そうにリッカを見上げた。
「どうされました?」
「うーん……」
リッカは悩みながらじっと虹の雫を見つめる。
「属性魔力の判定には素材の一部が必要でしょ? でもこれは貴重な素材だから、出来ればこのまま保存しておきたいのよねぇ。はぁ。フェンにもっとたくさん採取して貰えば良かった」
二人は顔を見合わせて困ったように首を傾げた。それからまたリッカは虹の雫の入った瓶を見つめ続ける。今度はそれにフェンも加わった。
しばらく何の変化もない時間が流れたが、やがてリッカの眉がピクリと動いた。
(何だかさっきまでと違う?)
リッカは瓶に顔を近づける。甘い匂いが香ってきた。甘い蜜の匂いだ。虹の雫の蜜が溶け出した水は、とても甘くて良い香りがするのだが、今はその香りがとても強い。何故だろうか。
リッカは水の中の花からは視線を外さず、右に左に瓶を覗き込む角度を変える。花の周りの水の色が少し変わってきたような気がした。透明なはずの水は、花の周りだけ明らかに七色の光を強くしている。そして、甘い匂いがさらに強まったように感じるのだ。
「もしかして……」
リッカの脳裏にある予感が過ぎる。考えている時間はない。思わず声を上げたリッカにフェンは驚く。リッカは、早口でフェンに指示を出した。
「いい方法を思いついたかも知れない! 上手くいくか分からないけど……。もし、わたしが魅了されたら、どんな攻撃をしてもいいから正気に戻して」
フェンはリッカの突然の指示に目をパチクリさせながらも、真剣な表情を浮かべて頷く。
その時、瓶の中の液体がトロリと動いた。リッカは瞬時にスポイトを掴み取ると、勢いよく瓶の中へ突っ込んだ。そして、あっという間に液体を吸い取った。