新人魔女と師匠の共同研究(4)
「ああ、なるほど」
フェンはようやく理解がいったのか頷く。リッカはフェンの頭を撫でた。フェンは目を細めて嬉しそうな表情をする。そんなフェンのことが可愛くて仕方なくて、リッカは思わずギュッと抱きしめると、そのままモフモフの毛並みに顔を埋めてしまうのだった。
しばらくそうしていたリッカだったが、やがてゆっくりとフェンから体を離す。
「さてと、観察を続けなくちゃね」
リッカは気を取り直してそう呟く。フェンの毛並みがあまりに気持ちよくて思わずそのまま顔を埋めてしまったのだが、今は実験の最中なのだ。今回の実験に限ったことではないが、実験中に他ごとに脱線してしまうのは、集中力を切らすことになるので良くない。虹の雫が放つ魔力の性質も、それが及ぼす影響もまだはっきりと分かっていないのだ。実験に集中しなくては。リッカはグッと拳を握ると、虹の雫をじっと見つめた。
ゆらゆらと揺れる水中の花の周辺を観察する。花は水飴で出来ているかのように透明で、水中ではその輪郭がはっきりとしない。そのため目を凝らしてじっと見る。
(……あれ?)
リッカは虹の雫を観察するうちに首を傾げた。虹の雫の周りに、薄らと膜か靄のようなものが見える。
(なんだろう?)
リッカはそれをじっくりと観察し続ける。靄は虹の雫に近いほど濃く見えた。試しに花から視線を外し、少し離れた位置の水中に目を凝らす。すると、靄は薄くなっているように見えた。
「そうか! 虹の雫から溶け出した蜜だ!」
リッカは思わず興奮した声を上げた。溶け出した蜜は、まるで意思を持っているかの如くゆっくりと広がっていく。
リッカは万が一のことを考えて、外していたゴーグルを装着し直した。
(一度サンプルを取ってみよう)
鞄からスポイトを取り出し、水の中に手を入れる。蜜が溶け出していると思われる場所の水を、花に触れないように細心の注意をはらって採取する。そして小瓶に入れて栓をした。小ビンの中身はどことなくトロリとした質感の液体だ。
リッカは手とスポイトを洗浄すると、今度は受け皿に溜まった少量の水をスポイトで吸い、小瓶に収めた。こちらはサラリとした質感の液体のようだ。
虹の雫の蜜が溶け出した同じ水。それなのに質感が違う。このことについてリッカの中ではある仮説が生まれていた。しかし、それを立証する術をリッカは持っていなかった。
(仕方がない。あとでリゼさんに相談しよう)
リッカは次の作業へ移ることにした。