新人魔女と師匠の共同研究(3)
また虹の雫の魔力に魅了され、我を失っていたのか。そう考えると怖くなってくる。リッカは思わず自分の体を抱きしめた。
(気のせいだよね?)
「リッカ様」
フェンが再びリッカに声をかけた。
「だ、大丈夫……」
「そうですか」
フェンは心配そうにリッカの様子を見つめている。リッカは大きく深呼吸をして気を取り直す。
(しっかりしなきゃ)
リッカはそう自分に言い聞かせると、今度は少し慎重に水中の花の観察を始めた。しばらくしてリッカはハタとある事実に気がついた。
(花が水の中にあるうちは魅了されない?)
リッカはこれまでのことを思い返す。滝壺で水面越しに何かがあると目を凝らした時はまだ魅了されていなかったように思う。そのあと、フェンが水中から花を取ってきて水中の花を直視した時には完全に魅了されてしまっていた。
リゼに虹の雫かも知れないと瓶を渡した時も、花は水中から出してはいなかった。今日も、実験を始めるまでは水越しの花を見ても平気だった。
(でも、どうして?)
「リッカ様」
「……うん?」
リッカはいつの間にか考えに没頭していたようだ。フェンの声にハッとして顔を上げた。心配そうにリッカを見つめるフェンと目が合った。
「一度休憩をされてはいかがでしょうか?」
「……うん。そうね……」
リッカはそう答えたものの、何かが掴めそうな気がして、再び花の入った瓶へ視線を向ける。その時、キラリと光が反射した。
「あ、そうか!」
リッカは虹の雫をじっと見つめながら小さく呟くと微笑んだ。虹の雫が放つ魔力に魅了されない条件に思い至ったのだ。
「どうされたのですか、リッカ様」
「ふふっ、花に魅了されずに済む方法について分かった気がするの」
リッカは得意げな表情を浮かべると、フェンに微笑みかけた。
「まだ推測でしかないけどね」
「それは素晴らしいです! さすがリッカ様!」
フェンが感嘆の声を上げる。リッカはニコニコと微笑みながら、魔力阻害用のゴーグルを外した。
「ゴーグルを外してしまって良いのですか?」
不思議そうに首を傾げるフェンにリッカは笑って答える。
「多分大丈夫よ。花自体を視認しなければ」
「花自体? 観察を止めると言うことですか?」
「観察はするけどね。花が水の中にあれば大丈夫なのよ」
フェンはよく分からないのか首を傾げたままだ。
「つまりね、花が水の中にある場合は花自体を見ていないのよ。光の屈折で! 花を見ているつもりでも、水の中の本来の場所に花はないってこと」