新人魔女と不思議な花(7)
心配そうなフェンにリッカは力強く頷いてみせる。それからリッカは手早く自身と木の幹をロープで繋ぐ。これで花の魅了を受けても、この木の傍から簡単に移動することはない。しっかりと結ばれていることを確認すると、リッカはフェンに頷いてみせた。
「これで大丈夫でしょ」
リッカが優しく微笑むと、フェンは安心したように頷き、ゆっくりと体を起こす。そして、フェンは滝壺へと向かって歩き出した。
「あ! フェン、花は二つとって来てくれる?」
滝壺へ向かっていたフェンが足を止めて振り返る。
「二つですか?」
「そう、二つ。リゼさんにも見てもらいたいから」
リッカの答えにフェンは「分かりました」と答え、再び滝壺に向かって歩き出した。そして水の中に消えていく。リッカはその後ろ姿を見送って、木の根元に腰を下ろした。
(虹の雫か……)
見つけようとしても見つけることのできない希少な植物。それがここに自生しているとは驚きだ。この事実をリゼは知っているのだろうか。そもそも、あの花は本当に虹の雫なのだろうか。まだ分からない。これから調べるつもりではいるが、扱いが難しい素材であることは間違い無いだろう。
水中へ行ったフェンを待つ間、手持ち無沙汰になったリッカは、鞄の中から先ほど汲んだ滝壺の水が入った瓶を取り出す。
その水は、まるでそれ自体が発光しているかのように輝き、とろりとした水飴のようだった。思わず喉がごくりと鳴った。魔力を帯びたこの水を飲みたい欲求に駆られ、瓶の蓋に手をかけたところでリッカはハッと我に返る。
(これは、花の蜜を欲した時と同じ……そうか。水中に咲く花から蜜が溶け出しているんだ)
リッカは手に取った瓶を鞄の中に戻しながらため息をつく。
(魔素が含まれていて甘い水だと思ったけれど、あの花の影響だったのかも……だとしたら、採取に行ったフェンは大丈夫かしら)
リッカは不安げな表情で滝壺を見つめた。しばらく待つと水面が揺れ、フェンが水中から姿を現した。リッカはフェンの姿を見てホッと胸をなでおろす。どうやら花に魅了されてはいないようだ。
滝壺から陸に上がり元の姿に戻ったフェンだったが、リッカのそばへ来ようとはしない。花をリッカに近づけないようにしているのだろう。
「リッカ様、戻りました。花をどうしますか?」
フェンは、少し遠くから主人の指示を仰ぐ。リッカは鞄から先ほどの瓶を取り出すと、手早くフェンに投げ渡す。
「そこに入れてちょうだい」