新人魔女と不思議な花(5)
するとすぐに暖かな風が体を温め始め、服が乾き始めた。
「暖かくて気持ちがいいですね」
柔らかな風を浴びて、フェンは気持ち良さそうに目を細める。その仕草が可愛くて、リッカはクスクスと笑った。どうやら本人が言ったように、フェンの具合は、良くなりつつあるようだ。
暖かな風に包まれ、少し気持ちに余裕のできたリッカは、先ほどの花に思いを巡らせる。あの花の蜜の甘さを思い出し、リッカの喉が鳴る。もっと舐めたいと思ったことは事実だ。自分でも抑えられないほどの衝動。どうやら、あの花は人間にとって誘惑的な効果を持つものらしい。もしかしたら、危険な物を口にしてしまったかもしれないと考えると、背筋を冷や汗が伝った。
しかし、体調には特に変化は無さそうだし、あの花に対する欲求も今は収まりつつある。
「あの花には気をつけなくちゃ」
リッカは自分の思慮の浅さを痛感する。好奇心で水の中にあった花を手折ったばかりに、こんな騒動を引き起こしてしまったのだから。
「わたしもまだまだ未熟ね」
リッカが肩を落とすと、傍に寝そべっていたフェンがまるで慰めるかのようにリッカの手の甲をペロリと舐める。
「ありがとう、フェン」
慰めてくれる優しい子狼に微笑むと、リッカは鞄の中から先ほど採取した滝壺の水を取り出し中を確かめる。甘い味の魔素を含んだ滝壺の水。それを眺めていると、先ほどと同じ甘い痺れが脳髄に走るのが分かった。思わず水の入った瓶を鞄に突っ込む。
「もしかしたらあの花から……」
リッカの視線は、また滝壺へと吸い寄せられていく。そんな様子の主人を心配するように、フェンが吠える。すると、ハッとしたようにリッカの瞳に光が戻った。
「ごめんなさい。ちょっと気になることがあって」
「気になること?」
フェンの問いかけに対し、リッカは困った表情で首を振る。
「まだ確信はないの。でも……」
「でも……?」
リッカは少しだけ迷った後、意を決したように口を開いた。
「あの花は、虹の雫という貴重な植物の可能性があるわ」
「虹の雫?」
フェンはリッカが口にした言葉に首を傾げる。
虹の雫とは、魔力濃度の高い非常に珍しい植物だ。だが、その生態はほとんど知られていない。
「虹の雫は数年に一度しか咲かない上に、どこに咲くか分からないらしいの。だから、見つけた者は幸運になると言われているわ」
「幸運ですか?」
「そう。でも、逆に悪魔の植物とも言われているの。見つけた者は必ず身を滅ぼすって」