新人魔女と不思議な花(1)
無事に魔道具の試動が終わったことで肩の荷が降りたリッカは、フェンとともに森へ採集に来ていた。もちろん工房主の許可は得ている。
まずは手頃な薬草を採集し、常備する素材を集める。リッカは魔道具作成も好きだが、薬の調合も大好きである。そのため、多くの薬草を魔法の鞄に常備している。
これまでの魔道具作成で使ってしまった月華草、星屑茸、風鈴花などの補充をするため森の中を行く。リッカの足取りは軽い。森を進む足には迷いがなく、採取ポイントを熟知しているようだった。採取ポイントに辿り着くとリッカは手早く薬草を採集する。
必要以上の素材は採集しない。薬草も他の素材も必要以上に採集すれば、その場所の生態系を狂わせる。リッカは、これまでたくさんの素材を採集してきたが、過剰採取には気をつけていた。
そうして必要な素材を集め終えると、リッカは魔法の鞄にそれらを全て収納した。
マグノリア魔術工房へ就職してからというもの、この東の森へは頻繁に足を運んでいたが、森は広く、まだまだリッカの知らない場所がたくさんあった。
リッカは森の散策が好きである。新たな素材との出会いと、自分の知識欲を存分に満たせる時間だからだ。
リゼからも許可を得ているし、今日は思う存分散策を楽しみたいとリッカは思っていた。のびのびと散策ができることを喜びながら、ウキウキと未開の地へ足を踏み入れる。いつもの洞窟とは反対の森の奥へと歩みを進めるリッカの歩みに迷いはない。サクサクと草木を踏みしめながら森の中を進んで行く。
奥へと進むたびに、空気が変わるのを感じた。空気が湿り気を帯びる。もしかしてとリッカは、その先にある物を予想し、歩みを進める。
やがて視界が開けた。目の前には美しい滝が現れた。木々の間を幾筋もの水が流れ、それらは小さな滝壺へ流れ落ちていく。滝壺は陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
リッカは、滝壺に近づく。どことなく甘い香りが漂っているような気がした。滝壺を覗き込んでみる。深さがそれなりにありそうなのに、キラキラと輝く水底がはっきりと見えた。水を両手で掬う。透明な水がキラキラと光を反射しながら、リッカの手の内から溢れ落ちる。リッカは滝壺の水をゴクリとひと口飲んだ。その水はほんのりと甘く、ほのかに魔力を感じる。
この水は魔素を含んでいるようだ。リッカは喜色満面な笑みを浮かべると、自身の鞄から一つの小瓶を取り出す。そして小瓶にその水を汲んだ。