新人魔女の完成魔道具(6)
リッカとフェンがリゼの作業スペースを離れ、工房内をぶらぶらと歩いていると、食堂の入り口からエルナが顔を覗かせた。
「あら。リッカ様。お疲れ様です」
「エルナさん。こんにちは」
エルナはニコニコと笑いながら、リッカに向かって手招きをする。
「物音がしたから、ネージュ様がお仕事を終られたのかしらと思ったのだけれど」
「リゼさんなら、真剣な顔で鍋をかき混ぜていましたよ」
テーブルには既にリゼのためのお茶の準備がされていた。焼き菓子も置かれている。クッキーだ。焼きたてなのかバターの香りが食欲をそそる。
リッカが席につくと程なくして、エルナが二人分のティーセットと少し多めに皿に盛られたクッキーを運んできた。
「先に、お茶を頂きましょうか」
そう言って少し悪戯っぽく笑うエルナに、リッカもクスクスと笑い返す。そして、エルナが淹れてくれた温かい薬草茶を一口飲むと、ほぅと小さく息を吐いた。
足下にモフッとした感触を覚えて下を見れば、フェンが体をすり寄せてきていた。クッキーの催促だろう。リッカはフェンの頭を撫でて、皿からクッキーをいくつか取るとそのうちの一枚をフェンに与えた。美味しそうにもぐもぐと食べる姿が可愛らしい。
リッカは、そんなフェンの様子を見て、ククッと喉の奥で笑う。そして、自身もクッキーを食べる。口の中でほろっと解ける食感に思わず舌鼓を打つ。そうして、至福の時に浸っていたリッカは、ハタと思い出したかのように鞄の中から魔道具を取り出した。
「そうだ。エルナさん。魔道具が完成したんです。良かったら見て頂けませんか?」
「私なんかが見ても、何も分かりませんけれど」
そう言いながらも、エルナは興味津々といった様子でリッカの差し出した魔道具を覗き込む。そしてすぐに感嘆の声をあげた。
「まぁ、素敵」
星屑を散りばめたようなデザインの髪飾りに、エルナの目がキラキラと輝く。
「これは、エルナさん用の魔道具です。エルナさんの栗色の髪に映えるようにネイビー色の髪飾りを作りました。防御魔法に特化していて、付けていれば、エルナさんを守ってくれます」
「こんなに素敵な物を私のために……」
驚きにエルナが目を見開く。
「まだリゼさんのOKをもらっていないので、完成というわけではないのですが。どうでしょうか? 色やデザインが気に入らなければ言ってください。まだまだ変更可能ですから」
リッカの申し出に、エルナはとんでもないとでも言いたげに頭を振る。