新人魔女の完成魔道具(5)
リッカは、結界を解いて水晶を拾う。フェンが耳を垂れてしょげた様子でリッカのもとへやって来た。
「特訓、お疲れさま」
「今日も奴らに敵いませんでした」
「そんなことないじゃない。水晶にはまだ魔力が少し残っているもの。今日はフェンの勝ちなんじゃない?」
リッカの言葉にフェンはフルフルと頭を振る。
「リッカ様のご指示があったから、奴らを一掃できただけで、僕だけでは、今日も倒せなかったはずです」
悔しそうに垂れるフェンの頭を撫でながら、リッカは土壁があった場所を見つめる。フェンは確実に魔力を使いこなせるようになってきているし、その威力は日々増していっている。フェンはまだ戦い方を知らないだけなのだ。戦い方を覚えれば、フェンはもっと強くなれるだろう。リッカはそう確信していた。
「フェンはまだ魔法を使えるようになったばかりだもの。これから魔法での戦い方を覚えれば、一人でも勝てるようになるわよ」
リッカが励ましの意味を込めて頭を撫でると、フェンは自信なさげに尻尾をゆらゆらと揺らす。その様子にリッカはクスクスと笑う。
「クッキーを食べて、少し休憩をしたら工房へ行きましょう。魔道具が完成したから、リゼさんにチェックしてもらいたいの」
クッキーと聞いた途端、フェンの目が爛々と輝きだす。尻尾を大きく左右に振りながら、キラキラとした瞳で見つめてくる様は、とても愛らしい。リッカはフェンを抱き上げると、思わずぎゅっと抱きしめた。
洞窟内で小休憩をとったリッカとフェンは、共に工房へとやってきた。今日は作業をしてから工房へ顔を出すと前もって伝えてあった。
「こんにちは」
扉を開けると、リゼの使い魔のグリムがお決まりの場所で丸くなっていた。
「グリムさん、こんにちは。リゼさんはどちらにみえますか?」
リッカが尋ねると、グリムは片目を開けてチラリとこちらを確認した。それから再び瞼を閉じると、今度は尻尾で工房の奥を示した。どうやら奥の方にいるらしい。
リッカがリゼの作業スペースに顔を出すと、大きな鍋をかき混ぜるリゼの姿があった。今日は金髪サラサラのショートヘアだ。
リゼは集中しているようで、リッカたちがやって来たことに全く気がつかない。鍋の中の液体がグツグツと煮え立つ音と、時折かき混ぜる音が静かに響く。リゼの作業がひと段落するまで、声をかけるのは難しそうだ。
リッカとフェンは邪魔にならないよう、リゼの作業スペースからそっと離れることにした。