新人魔女の魔力暴発計画(3)
予想外の言葉だったようで、リゼは意外そうに声を上げた。しかし、リッカは至って真面目な顔で頷いてみせる。
「はい。一から髪色を変える魔装の研究をしたのでは時間がかかります。リゼさんの魔術書から何かヒントを得られれば、時間を短縮できるのではないかと思ったのです。それにリゼさんはお忙しいと思うので、まずは自分で出来ることをやりたいのです」
リゼはリッカをじっと見つめる。リッカの提案には一理ある。それに、研究に付き合えと言っている訳ではなく、リッカなりに、自分で出来ることをしようと考えた結果の提案であることがリゼには好感が持てた。
リゼにとって魔術書を貸し出すのは造作もないことだった。あれは開いたところで、見た目には白紙のページばかりなのだ。リゼは机の上に置いてある小さな箱へ手を伸ばすと、無言で中から小さな筆記帳を取り出した。
「参考になれば良いが」
リゼはそう言うと、リッカにその小さな魔術書を手渡した。リッカは緊張した面持ちで魔術書に手をかざす。そして、ゆっくりと指先から魔力を放出するようにイメージしながら、魔術書に少しずつ魔力を注ぎ込んでいく。すると、すぐに変化が現れた。
魔術書がぼんやりと輝いたことを確認して、リッカはふぅと小さく息を吐いた。どうやら、今のリッカに最適な魔術が記載されたようだ。リッカは緊張の面持ちでパラパラと頁をめくる。しばらく頁をめくっていたリッカの手が止まり、そして、じっとある場所に視線が注がれた。
リッカは時折眉を顰めたり、眼を瞑ってこめかみをトントンと指で叩いたり押さえたりする。どうやら、何かを考えているようだ。リゼが黙ってその様子を眺めていると、やがて閃いたのかリッカの表情が輝いた。そして、魔術書をリゼに差し出すと、嬉しそうに口を開いた。
「この魔術が応用出来そうです」
リッカの閃きに、リゼも興味があった。しかし、魔術書に視線を落とした瞬間、リゼは驚きに眼を見開た。
『属性魔法付与』
開いた頁にはそう書いてあった。リゼはその文字をじっと見つめる。リッカがこの魔術で何を思いついたのか分からない。しかし、術式自体は簡単だ。属性を付与したいものに、その属性の魔力を注ぎ込むだけ。例えば、火の魔力で指輪を作りたいなら、その指輪に魔力を注いで術式を発動させれば良いのだ。
リゼはリッカを見た。
「これをどのように活かすのかは知らないが、まぁ、この程度の魔術であれば危険はないと思う」