新人魔女と不器用な師匠(5)
(それならそうと先に教えてくれればいいのに)
リッカは不満げに頬を膨らませる。だが、そんなリッカにジャックスは言った。
「おいおい。そう睨むなよ。それに俺は仕事を紹介したときに、助手を探してると伝えたはずだぜ?」
そうだっただろうか。あの時のリッカは言葉の意味を深く考えていなかった。卒業したばかりの者は工房見習いになるのだとばかり思っていたからだ。
「まあ、細かいことは気にするな。工房見習いをすっ飛ばして、その若さで助手なんてなかなかなれるもんじゃないんだからな」
「それは……そうかもしれませんけど……」
やはり釈然としない。文句のひとつも言おうとしたその時、ジャックスがニヤッと笑って言った。
「たくさん実習がしたいって言ったのは嬢ちゃんだぜ? いいじゃねぇか。希望が叶ったんだから」
「うぅ……。そ、そうですね……」
それを言われると弱い。確かに自分の希望を叶えるために、この工房を選んだのだ。ここで文句を言うのは筋違いというものだろう。
「それに、工房主のリゼが嬢ちゃんを助手として雇うと決めたんだ。何も問題ねぇよ」
「……そういうもんですかねぇ」
リッカはしぶしぶといった感じに納得した。すると、ジャックスは楽しそうに笑った。
「なんだ? 嬢ちゃんはリゼの助手は嫌か?」
「い、いえ、そういうわけでは!」
慌てて否定する。正直に言えば、リゼのような人と仕事をするのは少し緊張するが、決して嫌ではない。むしろ色々と学べそうで嬉しいくらいだ。
「そうか。なら良かった。これからもリゼをよろしく頼むぜ、嬢ちゃん」
「はい、こちらこそ」
リッカは笑顔で答えた。ジャックスと話しているうちに気分が晴れてきたリッカは、残りの作業に取り掛かった。その様子をジャックスはニコニコと笑いながら見守っていた。ジャックスの視線を背中に感じたリッカはふと疑問に思った。
「あの、ところでジャックスさんは、今日はどうしてこちらに?」
「ん? ああ、嬢ちゃんの様子見だ。一応な。これもプレースメントセンターの仕事の一環だ」
「そうなんですね」
それからリッカはジャックスと言葉を交わしつつ、手を動かし続けた。いつしか、手持ち無沙汰にしていたジャックスもリッカの作業を手伝うようになり、そして二人は、昼過ぎにすべての作業を終えることができた。
「よし! これで終わりです」
「お〜、お疲れ」
長時間集中して作業をしていたせいで体が凝り固まっている。リッカは大きく伸びをした。




