新人魔女と妊婦と不思議なアップルパイ(7)
それからしばらくの間、二人は他愛もない話に花を咲かせた。アップルパイの美味しさも手伝って、リッカはすっかり楽しい気持ちになっていた。しばらく経った頃、ミーナがごく自然にリッカに尋ねる。
「ねぇリッカちゃん。何か困っていることでもあるの?」
突然そう言われてリッカは面食らう。慌てて首を横に振った。
「そ、そんなことありませんよっ」
「本当に?」
ミーナの問いかけに、リッカは戸惑いながらも頷く。それを見てミーナは少し考えた後、言った。
「じゃあ、何か聞きたいことがあるのかな?」
そう言われてリッカは、思わず目をパチパチとさせた。この人は体調が優れないというのに、やけに鋭い。それとも、自分が分かりやすすぎるのか。リッカは少し気まずくなりながらもおずおずと口を開いた。
「困っているとか、そう言うことではないのです。その……リゼさんから言われた仕事が上手くいかなくて、悩んでいて……。それで、気分転換も兼ねてちょっと街の様子を見に来たというか」
リッカの言葉に、ミーナは少し驚いたような顔をする。
「まぁ! リッカちゃんは、もうネージュ様からお仕事を任せてもらっているの?」
「任せてもらっていると言うか、無茶振りされたと言うか。一応、わたしのできる範囲でやってみたんですけど 。でも、なんかこう……それではダメな気がして」
リッカの答えにミーナは眉を寄せる。
「ネージュ様には、ご相談したの?」
「いえ、まだ。昨日、指示があって試作品を作ったばかりなので。でも……」
事情を聞いたミーナは腕を組んで考える素振りを見せると言った。
「リッカちゃんは、その試作品に何か引っかかりを感じているのね。それなら、もっと試作品を作るべきなんじゃない?」
ミーナの提案に、リッカはキョトンとした顔をする。魔力暴走を引き起こすような代物をもっと作るなど危険すぎる。どう答えたらいいか分からず、リッカは困ったような顔をした。そんなリッカに、ミーナはニコニコと言う。
「リッカちゃん。さっきのアップルパイ、美味しかったわよね?」
突然、話題がアップルパイの話に変わった。リッカは戸惑いながらも、正直に頷く。
「はい。美味しかったです」
「あの味を出すまでに、一体どれだけの時間がかかっていると思う?」
アップルパイの作り方なんて考えたこともないが、りんごを煮詰めてバターや小麦粉を混ぜるだけならそう時間もかからないだろうし、焼く手間もそれほどないのではないだろうか。