表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/461

新人魔女と妊婦と不思議なアップルパイ(6)

 ジャックスからアップルパイの箱を受け取ると、ミーナはそっと蓋を開けた。途端に甘く香ばしい香りが辺りに広がる。甘酸っぱい香りと甘い香りが合わさり、なんとも言えない幸せな空気が店中に広がった。ミーナはじっとアップルパイを見つめていたかと思うと、嬉々とした声を上げた。


「これなら食べられるかもっ!」


 突然のミーナの言葉に、ジャックスは驚きながらも、慌ててアップルパイを店の奥へ持って行く。そして、あっという間に切り分けて戻って来た。


 ミーナとリッカの前には、アップルパイが並ぶ。芳しい匂いと共に漂うバターの香りに、思わずリッカの喉がゴクリと鳴る。


 しかし、問題はミーナが本当に食べられるのかと言うことだ。リッカとジャックスが固唾を飲んで見守る中、ミーナはフォークを手に取ると、アップルパイにスッと差し入れた。そして、パクりとアップルパイを口に入れる。そのまま嬉しそうに顔をほころばせながら咀嚼するミーナを見て、ジャックスから安堵の息が漏れた。


 リッカはそんな二人の様子に心の中でホッとため息を吐いてから、自身もアップルパイを一口頬張った。パリッとした生地の食感と共に、煮たリンゴの甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。そしてバターの香りがふわりと鼻をくすぐる。ほのかに香るシナモンがなんとも絶妙で、まさに絶品だと言える一品だった。


(美味しい……)


 あまりの美味しさにうっとりとしながら二口目を頬張っていると、あっという間に食べ終えてしまったミーナが口を開いた。


「リッカちゃん。このアップルパイはどこのお店のかしら?」


 尋ねられてリッカは、先ほど屋台の主人から聞いた情報を伝える。すると、ミーナはジャックスの方を見て言った。


「あなた、そのお店のアップルパイをあと十個買ってきて」

「わ、わかった。今すぐ行ってくる。待ってろ」


 唐突なミーナの言葉に、ジャックスはバタバタと店を出ていく。リッカは思わず声を上げた。


「えっ? そんなに食べたら、また具合が悪くなるんじゃ……」


 慌てるリッカに、ミーナは言った。


「大丈夫よ。これならいくらでも食べられるわ。他の物は全然受け付けなかったのに、これは大丈夫だなんて。不思議ね」


 そう言って笑うミーナの顔色は、心なしか血色が良くなっているように思えた。ミーナがジャックスにした大量の注文は心配だったが、それでも、食べられる物が見つかったのなら良かったと、リッカは安堵してアップルパイに舌鼓を打った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ