新人魔女とわがまま師匠(8)
エルナは首元からシャラリとペンダントを取り出した。それは、いつかリッカが精霊の加護を付与したペンダントだった。
エルナはペンダントを愛おしそうに見つめながら、話を続ける。
「リッカ様にこちらを作成して頂いてから、お仕事で失敗する事は減りましたけれど、マリアンヌ様や侍従長にご納得頂くお仕事はなかなか出来なくて……。なので、この辺りでお暇を頂くのも良いかと思っているのです」
エルナはそう言うと、少し寂しげに笑った。リッカはそんなエルナの微笑みを目にして何も言えなくなる。はっきりとは口にしないが、もしかしたら今の職場はエルナには向いていなかったのかもしれない。リゼもその事を分かっているから、エルナに王宮勤めを辞めさせたいのだろうか。リッカはそんなことを考えながら、ふとエルナの手の中で光るペンダントに目をやった。
「もっとエルナさんの役に立つものが作れればよかったですね」
リッカの申し訳なさそうな言葉に、エルナは首を横に振った。
「私はこのペンダントにとても助けてもらいましたよ。それに気に入っていますから。思うようにお仕事ができないのは、私自身の問題なのです」
エルナはそう言うと、ペンダントを丁寧に首元にしまう。
リゼは二人の会話を聞きながら、何かを考えるよう様に顎に手を当てていたが、少し経って口を開いた。
「エルナさんのペンダント、あれは、君がやったものだったのか?」
リゼに問われ、リッカは戸惑いながら頷いた。
「え、えぇ。エルナさんの力になればと思って、わたしが精霊の加護を付与しました」
リゼはリッカの答えに「なるほど」と頷くと、何かを思案し始めた。
「グリムからの報告で、魔道具の作成に長けていると聞いていたが、その通りかも知れないな」
ボソリと呟いたリゼの言葉は、リッカの耳には届かなかった。
リゼはしばらく考え事をするように押し黙っていたが、やがて顔を上げるとニヤリと口角を釣り上げた。リゼの不敵な笑みは、悪巧みをしているとしか形容しようのない笑みで、リッカは嫌な予感に襲われる。
「な、なんですか。その悪そうな笑みは? 皇子様がそんな表情をしてはいけませんよ!」
リッカの指摘に、リゼの笑みはますます深まる。
「ここでは私はただの君の雇い主だ。どんな顔をしていようが問題あるまい。そんなことよりも、君に仕事を与える」
「し、仕事? 何ですか、急に?」
「心配するな。簡単な仕事だ。魔道具を二つほど作成してほしいだけだ」