新人魔女とわがまま師匠(7)
リゼは、リッカの訝しげな視線を逃れるように顔を逸らす。そして、一つ咳払いをする。リッカはまだ腑に落ちない顔をしていたが、リゼの説明にとりあえず納得の意を示した。
「そこまでは分かりました。ですが、そこからどういった流れでエルナさんと婚姻することになるのです?」
リゼはリッカのもっともな疑問に、眉尻を下げて少し困った表情を浮かべた。それからエルナに向かって勢いよく頭を下げる。突然頭を下げられたエルナは、驚いたように目を瞬かせている。リッカもリゼの突然の行動に目を丸くした。
リゼは頭を下げたまま続ける。
「大変申し訳ありませんが、エルナさんには、彼女が陛下に謁見するまでに、王宮の侍女を辞めていただく必要があります」
「頭を上げてください、ネージュ様」
自身に向けられた声にリゼが素直に従うと、そこには静かに微笑むエルナの顔があった。
「私はもとよりそのつもりですから」
リッカには、エルナが何故侍女を辞めなければならないのか、さっぱり理解できなかった。
「ちょっと待ってください、リゼさん。どうして、エルナさんがお仕事を辞めなくてはいけないんですか?」
リッカはリゼに詰め寄る。そんなリッカに、リゼは真剣な面持ちで口を開いた。
「君は馬鹿か。エルナさんには宰相家の人間という身分を得てもらうと言ったではないか」
リッカはリゼに叱られて一瞬怯む。しかし、すぐに気を取り直すと、反論した。
「それは分かっていますが、どうしてお仕事を辞める必要があるのですか?」
リゼは呆れたようにため息を吐いた。
「君には危機感というものが無いのか? 王宮にはどれだけの人間がいると思う? 宰相の養女となり、王族に嫁ぐことを快く思わない輩は必ずいる。そんな場所にエルナさんを置いておけるはずがない。だから、エルナさんには王宮務めを辞してもらう必要があるのだ」
リゼの言葉に、リッカは驚愕して目を見開く。そんなリッカに構うことなく、リゼは話を続けた。
「残念ながら人の心はそれほど清くないぞ。そして、思うところはあれど、身分差には従順だ。だからこそ、エルナさんにはなるべく早く王宮を出て、宰相家に入ってもらいたいのだ」
リゼの言葉に、リッカは釈然としない様子でエルナに問いかける。
「エルナさんはお仕事を辞めてしまっても良いのですか?」
「私はこれまで王宮勤めを苦に思ったことはありません。ですが、侍従長からは向いていないと言われてしまったこともありますし……」