新人魔女とわがまま師匠(4)
頑なな姉の姿に即位直後の不安定さを感じたリゼは、姉を安心させるべく提案された婚姻を了承したと言う。但し、もう一人の当事者となる宰相の娘が承諾したらという条件付きで。その相手とはもちろんリッカのことだ。リゼが危惧したエルナの帰任については、婚姻が決まれば何かと慌ただしくなるので、もうしばらくリゼの元に居させるとのことだった。
リゼの説明を受け、リッカは、はぁと曖昧な相槌を打った。その後はリッカも知る通りリゼから婚姻の話を聞き、色々と葛藤した挙げ句、納得した上で婚姻を了承したのだが、その婚姻話は、目の前にいる元凶者によって翻されてしまった。
「それでどうして、エルナさんの養女の話になるのですか?」
リゼの説明を聞いてもリッカにはさっぱり分からない。リゼが自身の気持ちを押し殺し政略結婚を受け入れようとしたことは、上級貴族としては理解できる。しかし、それがどうしてエルナを養女にという話になるのか。リッカは首を傾げるばかりである。
リゼはそんなリッカに、深く深くため息を吐くと、面倒くさそうに言い放った。
「君のせいだ」
リッカは目を丸くする。
「わ、わたしのせいですか?!」
どうにも話が見えないという顔のリッカに、一つ咳払いをした後、リゼは渋々といった様子で口を開いた。
「君がエルナさんの気持ちを聞き出してしまったから……」
「……ネージュ様」
尻すぼみになったリゼの言葉は、リゼの隣で真っ赤な顔をして立っているエルナのため息にも似た呼びかけに遮られた。
リゼはエルナをちらりと見ると、すぐにリッカに視線を戻す。そしてもう一度場を取り繕うように咳払いをすると、何かを諦めたようにぽつりぽつりと話し始める。
「君の計画を一晩私なりに考えたのだ。果たしてそれが最善の策なのか。私は一度君の提案を受け入れた。しかし、考えれば考えるほど欲が出てきた」
「欲……ですか?」
リッカにはリゼの真意が見えない。リゼはそんなリッカに、居心地が悪そうに顔を顰めて話を続ける。
「エルナさんを娶りたい。私の本心を君が掘り起こしてしまったのだ。だが、エルナさんは姉上の侍女。私は王位継承権が無いとはいえ皇子。王家との婚姻など、エルナさんの今の身分では周りが納得しないだろう」
リゼは軽く目を伏せると、苦々しく言葉を吐き出した。
「エルナさんが今も爵位の身にあれば……貴族の身分でさえあれば……私はそう望んでしまったのだ」
リッカはようやく合点がいった。