新人魔女とわがまま師匠(3)
エルナは自分を犠牲になどしていない。むしろ、リゼもエルナ自身も自分たちの将来のために、エルナが宰相の養女になることを望んでいるのだ。しかし、だとしたらなぜリッカに婚姻の話などしたのだろうか。二人でさっさと結婚してしまえば良いではないか。
リッカは目の前で言葉を交わす二人を見つめ、事の不可解さに思わず頭を抱えた。リッカの百面相に、気がついたリゼとエルナは互いに顔を見合わせると、思わず吹き出してしまう。
その笑い声でリッカは、自分が二人から笑われていることに気がつき、顔を真っ赤にして抗議した。
「なっ! なんで笑うんですか!? 」
リッカの困惑ぶりに、エルナは更にくすくすと笑い出し、リゼはしれっと言い放った。
「いや? 別にどうということはない。それで、話は終いということで良いのか?」
リゼのその一言に、リッカはハッとして反論しようと身を乗り出す。
「まだです。まだ話は終わってません!」
「なんだと言うのだ」
リゼは億劫そうにリッカに問いかける。リッカはチラリとエルナを見ると、意を決したように口を開いた。
「エルナさんの気持ちはわかりました。でも、そもそもお二人が想い合っていたのなら、さっさと結婚すれば良いのです。わざわざ、わたしに婚姻話をする必要などなかったのではないですか? これでもわたしは真剣に悩んで決断したのですよ」
リッカはそう言うと、再びリゼとエルナを交互に見つめる。リゼとエルナは互いに顔を見合わせると、困ったように苦笑いをした。二人の反応にリッカは困惑し、眉根を寄せる。そんなリッカに、リゼは鬱陶しそうな口調で言い放った。
「そもそも私は、本当に君と婚姻するつもりだったのだ」
一瞬何を言われたのか理解できずポカンとしていたリッカだったが、慌てて口を開きかけた。そんなリッカをリゼは片手をあげて制する。リッカは口を噤み、リゼの言葉を待った。
リゼはため息を一つ溢すと、面倒くさそうに語り出す。先日エルナを連れて城へ戻った時のことだとリゼは言った。
要件は王位継承の件だと聞いていたので、姉マグノリアの即位の決定と、それに伴いエルナの帰任についての話があるのだろうと思い、エルナを伴って出かけた。
しかし、そこで待ち受けていたのは、思いもよらぬ自身の婚姻話だった。リゼは自身には王位継承権はないし、今後も王位を望むことはないと何度も説明し、婚姻話を回避しようとしたが、姉は首を縦に振らず、譲る様子を見せなかった。