新人魔女とたいへんな密約(6)
リッカは悔しさに奥歯を噛みしめる。しかし、リッカの思いに反して、リゼは穏やかな口調で話を続けた。
「私は、ご息女のまだ開花していない才能を楽しみにしているのです」
宰相が慌てて何かを言おうとするのを制しながら、リゼは静かに首を横に振ると再び口を開く。
「ご息女はいずれ素晴らしい才能を発揮します。今はまだ拙いですが、近い将来、大賢者の称号を継ぐほどの才能を開花させる可能性も十分に考えられます」
リゼの言葉に、リッカは驚くと同時に胸が熱くなるのを感じた。師匠であるリゼがリッカの成長を楽しみにしていると宣言したのだ。
両親は顔を見合わせている。リッカの両親は困惑を隠しきれない様子だが、リゼはそんな二人の様子を気にも止めず話を続けた。
「だからこそ、私は魔法の師としてご息女の後ろ盾になりたい」
リッカはリゼの話を聞きながら胸がいっぱいになるのを感じた。
(リゼさんが私を認めてくれている)
リゼに認めてもらえたことが純粋に嬉しかった。リッカは自然と顔が綻ぶのを感じた。
両親は目を丸くしながらリゼを見つめている。やがて、宰相は覚悟を決めたように大きく息を吐くと、静かに問いかけた。
「リゼラルブ様。貴方様がそこまで仰るならば、我々は貴方様のお言葉を信じ、娘をお預けしましょう。……しかし……貴方様は本当に我が娘との婚姻をお望みなのですか? 先ほどからのお言葉を伺うに、貴方様は……」
リゼは宰相の問いかけに一度目を伏せる。そして次の瞬間、リッカの耳に届いたのは予想外の言葉だった。
「国王陛下は私と宰相家の娘の婚姻を望んでおられる。私はそのご意志に従おうと思っています」
リゼの遠回しな回答に、リッカは眉根をきゅっと寄せた。なぜリゼがこのような言い方をするのか分からない。リッカとの婚姻を望むのであれば、「そうだ」と一言答えれば良いだけだ。しかし、いくら考えたところで今のリッカには皆目見当もつかない。
訝るリッカに構わず、リゼは言葉を続けた。
「しかし、ご息女の将来を考えると、今すぐ私と婚姻をするというのは、望ましくないと考えます。幾ら王位継承権のない皇子とはいえ、私が一国の皇子であることには変わりありません。皇子の妃ともなれば、公務に縛られることも多くなるでしょう。私はご息女に魔法の才能を見込んでいるが故に、ご息女が魔法を学べる環境を整えたいのです。そのためには、皇子の妃という地位は、リッカ嬢には相応しくないと思います」




