10章 過去の呪縛 5話
「あんたには刑事としてのいろはを教わった。生活も儘ならなかった俺の家庭に資金援助までしてくれた。その事には感謝してるし、俺は親さっさんを尊敬してる。だが、あの時、子供だからと言って銃すら向けられなかったあんたが、結果論とは言え商店街で子供を撃ち殺した。何であの時足でもいいから撃たなかった⁉ そうすれば母さんは助かったかもしれないのに!」
時は戻り、レイジックは俯くタルヴォを激しい口調で詰問する。
レイジックに取ってかけがえのない母親だからこそ、ここまで激怒し、悪を憎んでいた。
「俺はこの先、何があっても遂行する。悪を滅ぼす。俺自身も含めてだ」
レイジックは覚悟していた。いずれ裁きを終えた時、自分自身も執行対象にしていた事を……。
「なあレイジック。俺達仲間だろ? だからタルヴォさんは俺達と一緒に手を汚してくれるって言ったんだぞ。タルヴォさんがそんな事をでたらめで言う人間に見えるか?」
ラーシュが懸命にレイジックを説得する。
その言葉が少し心に響いたレイジックは俯く。
「私はレイジックさんとタルヴォさんとの間に何があったかは分かりませんがこれだけは言えます。私に取って皆さんはかけがえのない仲間です。さっきレイジックさんも言ってましたよね? タルヴォさんを尊敬しているって。だからその人の言葉を信じてあげて下さい。先程の記者会見でタルヴォさんが言っていた事は、嘘偽りのない心根だと言う事を」
温かい追い打ちを掛けるように、ミリイが穏健な面持ちで言の葉を伝えてくれる。
レイジックはますます俯き、『仲間を信じろ』と自分自身に訴えかける。
そうしないと、ここまで言わせた仲間に顔向け出来ないような気がしてならなかった。
レイジックは唇を噛みしめ続ける。
「なあレイジック。俺は確かにショックだった。あの事件で子供を撃てなかった俺が今になって商店街で子供を撃ち殺した事に。何のために当時撃たなかったのか自分が馬鹿らしく思えるぐらいにな」
タルヴォは暗い面持ちで喋り続ける。
「だがよ、お前達が子供を撃ったってのに、俺がいつまでも過去を引きずっているわけにはいかない。ましてやお前は誰よりも悪を憎んでいるのに、俺が尻込みしたままじゃ年配者として示しがつかないしな。手本となってお前にブレーキかけてやらんと」
いつの間にか、タルヴォは思いやりのある言葉をかけてあげる事が出来た。
その表情も先程より豊かだった。
その温かい言葉にいつしか涙腺が緩くなっていたレイジック。
「……頼んだぞ」
「ああ。任せろ」
俯いたまま、涙目になりながらレイジックは言葉を吃らせる。
そんなレイジックに微笑みかけるタルヴォ。
そんな光景に安堵のため息を吐くミリイとラーシュ。
何とか収拾がつき、光を照らす(ライトイルミネイト)の結束は更に深まった。
問題発言となった記者会見だったが、その日の内にキャンディー所長が再び記者会見の場で、レイジックの生い立ちを話し、何故あそこまで過激な発言をしたのかを懇切丁寧に説明する。
その甲斐あって、民衆は同情し、批判的なコメントや苦情の電話や誹謗中傷などの声も酷くはなく、詮無き事となった。
その後、光を照らす(ライトイルミネイト)のメンバー達は、すぐにキャンディー所長に謝罪しに行った。
レイジックは深々と頭を下げ「自分があまりにも軽率でした。本当に申し訳ありません」と謝罪した。
キャンディー所長は怒らず「君の経緯については理解しているし、相憐れむものだ。だからあのような憤慨する気持ちは分かる。だがこれからは個人の見解だけでなく、趨勢の仲間の行き先を気にかけて欲しい。私の言っている意味が分かるかね?」と優しく声を掛けてくれると、レイジックは「はい。これからは自分のためだけでなく、仲間の未来のためにも邁進します」と真っ直ぐな瞳で言い切った。
キャンディー所長は黙って頷く。
すると、タルヴォも「私も少し過激な事を言ってしまいました。申し訳ありません」とキャンディー所長に謝罪する。
「あれくらいの事なら想定内だ。あの報道を目にした怪傑人達にもある程度のプレッシャーはかけてやらないと」
キャンディー所長は怒る事無く、淡々と言う。
こうして記者会見は無事に終わった。
果たして、レイジックは呪縛から解き放たれたのか……。
ここまでお読み頂き、評価して下さった読者の皆様方、本当にありがとうございます。
10章「過去の呪縛」はここで終わります。
次章からも是非ご一読ください。
よろしくお願いします。




