10章 過去の呪縛 4話
タルヴォの目が拡大されながら時は遡る事十年前。
「ほんとあいつキモイよな」
「ああ。家で毎日妖しい事やってるぜ。いつもクチュクチュ変な音立てたり喘ぎ声出したり」
「キモイわ」
十四歳のレイジックの家で友人を二人招いてしょうもない雑談をして盛り上がっていた。
いわゆる悪口だ。
同級生の男子生徒の住む住宅に行き、聞き耳を立て、その男子生徒の日常生活を脅かす行為をしていた。
気持ち悪い音を立ててると言っても、日常生活では奇怪な音が鳴っても仕方ないし当たり前の事のはずなのに。
石鹼で泡立てる音や、口から突発的なゲップや咀嚼音などなるのに……。
しまいにわ、その男子生徒を隠し撮りして、SNSなどに投稿したり玄関の扉を蹴ったりと日常茶飯事だった。
当時のレイジックは、なんと虐めをしていたのだ。
そんな中傷の話をして盛り上がりながら、レイジックはトイレに行くため席を立つ。
すると、トイレに居る間、耳を疑うような音がした。
――ドン!
なんと、一発の発砲音が家中に響いた。
レイジックは急いでトイレを出て、居間に向かう。
扉を開ける寸前に二発目の銃声が鳴る。
どう言う訳か知らないが、間違いなく居間には銃を所持した何者かが居る。
その事を痛感したレイジックは、居間の扉を開けるのに躊躇してしまう。
もし、自分が撃たれたらどうしよう、と戦々恐々(せんせんきょうきょう)として思い悩んでいた。
すると、レイジックが居間の扉の前で佇んでいると、ふと居間の扉が開いた。
そこには銃を手にし、シャツを血塗れにした、レイジックが虐めていた被害者が生気の抜けた表情で立っていた。
レイジックは目を大きく開かせ、身体はブルブルと震え、何も出来なかった。
そして、銃を手にしていた虐めていた被害者の男の子が、レイジックの眉間をグリップ部分で振り払うように殴りつけてきた。
「うっ!」
殴られたレイジックはその場で倒れる。
悶絶するような痛みに耐えながら殴ってきた少年の顔を見ようとする。
そして、その少年はレイジックに銃口を向ける。
生気が抜けているはずなのに、その目にはしっかりとした復讐心が伝わってきた。
レイジックは死を覚悟する所か、なぜこうなったか、を理解できず酷く困惑していた。
だがそこに、とある人物が開いていた玄関から姿を現す。
「おい! 何やってんだ⁉」
玄関先で目をギョっとさせ、誰何するタルヴォ。
すると、その銃を手にしていた少年は脇目も振らずタルヴォに突っ込んでいく。
「そいつを止めてくれ! 俺の友達が!」
レイジックの懸命な熱願。
しかし、タルヴォは銃を所持していたが、握る事すら出来ず、唇を震わせていた。
どう収拾すれば良いのだろう? と脳裏でパニックになりかけながら。
そんな刹那の時間も虚しく過ぎ去るかのように、銃を手にしていた少年はタルヴォを横切りその場を去って行った。
しかし、事件はそれだけでは終わらなかった。
ドーン!
銃を手にした少年は、道路を歩く一人の通行人を射殺した。
その射殺された人物は、あろうことか、レイジックの母親だった。
その日の間もない時間で、レイジックは友人二人と母親を失ってしまった。
葬儀の最中、レイジックは参列しにきたタルヴォを常に睨みつける。
しかし、レイジック自身、失ってから初めて気付かされた事がある。
それは、自分が生んだ悪のせいで大切な人達を失ってしまった事。
虐めをしていた二人の男子生徒達も根本的に悪い人物ではなかった。
困っている人が居たら手を差し伸べる時もあり、善良な心は持ち合わせていたのだ。
だが、まだ幼稚で短絡的な部分が否めなかった為、あのように他者を傷つけ、話題にし娯楽として興じていた。
浅はかな自分を呪ったレイジックは、すぐに刑事の道に進む事を決意する。
この世の悪を根絶するため、それが自分自身だとしても。
すぐに養子として引き取られたレイジックは、勉学や武道に精進していく。
だが、生活費も儘ならなかったレイジックの第二の家庭では、工面しても警察学校に行くお金が無かったが、タルヴォがお金を援助してくれた。
タルヴォはあの一件で負い目を感じ、少しでもレイジックの助けになりたかった。
そのおかげで、レイジックはタルヴォの全てを憎むことが出来ず、また、警察学校の時から、タルヴォに色々教わり、無事警察官となり、今に至る。
少年の犯人は今も尚、捕まっておらず、名前だけが知れ渡っていた。
名は、ミハン・コウデリー。
今現在、何をしているのか?
そして、事態を重く受け止めていた、タルヴォにしか分からない真相とは……。




