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10章 過去の呪縛 1話

 一夜明け、その日の午前十一時頃、光を照らす(ライトイルミネイト)のメンバー達はタルヴォの車に乗車し、ある場所に向かっていた。


 「ああ、嫌だなあ」


 「そんな事言わないの。私達にだって説明する義務があるんだから」


 ラーシュの辟易とした声に喝を入れるミリイ。


 「すまないな。俺が奴らを殺した事がきっかけで説明する記者会見をする羽目になって」


 「別にお前のせいじゃない。そもそも商店街で射殺した時点で、少なくとも俺ら全員が市民に説明する責任がある」


 レイジックが軽く謝罪をすると、タルヴォは庇う。


 すると、ミリイが悲し気な表情をする。


 犯罪者とは言え商店街で子供を(あや)めた事と、助けられなかった人達の顔が脳裏を過る。


 「そういうやあ、既にキャンディー所長は記者会見をしたんだもんな」


 助手席から窓の外をぼんやり見ながらラーシュはそう言う。


 「ああ。ただ、キャンディー所長の説明じゃ足りないから、現場の当事者である俺達に白羽の矢が立った訳だ」


 レイジックも窓の外を見ながら晴れない表情で答える。


 「白羽の矢と言うより必然だわなあ。まあどちらにしても説明する事は逃れられない。子供殺し何てこの国じゃ()(はっ)()みたいなものだしな」


 タルヴォは淡々と口にする。


 「そう言えば、例の件ですが」


 ミリイが気持ちを切り替え、話題を変える。


 「ああ。あの件か」


 レイジックが急に鋭い目になる。


 「それってここで話していいのか?」


 ラーシュは車内の様子を気にし始めた。


 まるで何かを探しているような素振り。


 「大丈夫だ。俺の車だから、盗聴されている事は無いはずだ」


 タルヴォは車を運転しながら(たい)(ぜん)として答える。


 すると、少しばかり車内の空気が軽くなった。


 「なら早速ですが、やはり居るんですよね……内通者が」


 ミリイが暗い面持ちでそう口にする。


 「十中八九な。でなきゃ株式会社が俺らの拠点だと言う事、俺の名前を知っていた事、ましてや会社の構内まで熟知していた。この点を踏まえれば、誰がどう考えても内通者が居る事は明白だからな」


 レイジックは悔しいのか、()(かん)だったのかは分からないが、拳を強く握る。


 「その内通者は俺らでないのは確かだ。光を照らす(ライトイルミネイト)が創立して以来、俺らは前歴を調べ、常に勤務態度や荷物チェック、私生活の現状報告をしていた。まあこれでも証拠不足かもしれないが、互いに怪しい点はないし、問題ないだろ。そもそも俺らは既にリーゼンキルを手に掛けている。仲間を殺して内通者である事を(いん)(ぺい)する理由は(かい)()だしな」


 タルヴォは冷静に語る。 


 「だよな。流石に仲間を殺す内通者なんて聞いた事ないし、いくら敵とは言えそこまでイカレた事はしないだろ」


 ラーシュもその通りだ、と言わんばかりに同意する。


 レイジックだけが浮かない顔をしていた。


 仲間を疑っている訳ではないが、そのイカレた行為を平然とするのが悪だ、と言う事を理解していたからだ。


 「どうしました? レイジックさん?」


 「いや、何でもない」


 ミリイの(ゆう)(りょ)する言葉に、若干間を置くが平然と答えるレイジック。


 「言っとくがお前ら、内通者が居るからって浮足立つなよ。下手に警察に揺さぶりでもかけたらすぐに俺らの首が飛ぶぞ。生身のな」


 タルヴォは落ち着いた様子で全員を制止させる言葉を掛ける。


 「分かってるよ。て言うか内通者って考えたくないけどさ。もしかして……」


 「その話はまた今度だ。そろそろ着くぞ」


 ラーシュは浮かない顔で何かを言いかけたが、レイジックが記者会見の会場に着く頃合いを見計らい止める。


 ラーシュも「あ、ああ」と少しあたふたしながらも口にし、一行は記者会見の会場に着いた。


 七階建ての新拓のホテル。


 そのホテルの中に入っていくレイジック達。


 中で迎えの警備員がレイジック達を誘導し、会見のホールの裏で資料や備品の準備とチェックをし、リハーサルを行う。


 特にこれと言った問題は起きなかったが、ラーシュは何処か気が抜けているようで常に眠そうな顔をしていた。


 だがその中でも、レイジックだけが、一際重苦しい表情だった。


 記者会見で何も起きなければいいのだが。


 軽食を済ませ、午後一時、ようやく記者会見が行われる。


 光を照らす(ライトイルミネイト)のメンバー達は、カメラのフラッシュを浴びながら入場する。


 フラッシュを浴びていたにも関わらず、ラーシュは欠伸を堪える。


 白いテーブルに配置されているスタッキングチェアーの椅子に各々が座り、そのテーブルの上には人数分のマイクが置かれていた。


 カメラやボイスレコーダー、手帳を手にし椅子に座っていた五十人の記者達。


 取材すると言う熱意や気迫がその表情から伝わっていた。


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