9章 闇の綻び 3話
そこで改めてヒーロー教官を怪訝な面持ちで頭頂部から靴までまじましと見るライト。
「なんだその目は。言っておくが私は納得してないからな。審査する奴らの目が節穴なだけだ」
ヒーロー教官は眉を顰め、不機嫌な様子だった。
「一体何があって一級と認定されたんですか?」
気掛かりで仕方ないライトは再び怪訝な面持ちでヒーロー教官に目を向ける。
「若い頃、バイト先の飲食店で注文されたメニューを客が「早く持って来い!」と急かすものだから、早く渡してやろうと投げ付けてやった。またあるスーパーの試食コーナーの鉄板の上でその試食コーナーに陳列されている品でバーベキューをしていただけで変人扱いだ! これのどこが異状だと言うんだ!」
ヒーロー教官はご立腹な相好で、ジェスチャーしながら語る。
「……全てです」
ライトは目を細め、思わず本音を漏らしてしまう。
「何が全てだ! どう考えても効率的かつ合理的な判断だぞ」
「ええ、まあ、一理あるかもですね」
改めて憧れな男の言動を全否定する訳にもいかなかったライトは、眉間に皺を寄せるヒーロー教官の言葉をある程度、尊重する事にした。
正確にはそれしか出来なかった。
もっと指摘すべきだとは思うが……。
すると、開けた歩道を歩いていると、六人の人相の悪い若者達がライト達に向かって歩いて来ていた。
ただの通行人ぐらいの認識だったライトだったが、その六人の男達はライト達を睨みつける。
「おいお前。今俺の事睨んだろ?」
すると、難癖を付けてきた一人の男が怒気の籠った顔でライトの前に立ちはだかる。
「いや、そんな事はしてないよ」
ライトは冷静に対応するが、残りの五人の男達は、ライトとヒーロー教官を取り囲む。
「嘘までつくとは頂けないな。俺が教育してやるよ」
男は不敵に笑いながらそう言うと、突如ライトの顔を殴りかかろうとしてきた。
容易く避けるライト。
「くっ、このやろう!」
避けられた事が気に食わなかった男は眉間に皺を寄せる。
「とんでもないガキんちょ共だな。さぞかし親の容姿も心もどよんでいるんだろうな」
嫌気が差すような表情でやれやれと言わんばかりのヒーロー教官。
「失礼な事言うな! 俺のマミイはこの世で最も光輝で抜群のスタイルの持ち主だぞ!」
何故か、ライト達の背後に居た痩躯な男が血相を変えて憤怒していた。
どこかマザコン臭がする。
そこで、ヒーロー教官は、その男が言っていた『抜群のスタイル』と言う部分に着目したのか、訝しい目をマザコンの男? に向け、ゆっくりと近付いていく。
残りのメンバーは、この状況をどう対処したらいいものか分からず、お互いの顔を怪訝な面持ちで見合わせる。
ライトは、またか、見たいな様子で目を細めながら事の成り行きを見守ろうとした。
「……母ちゃんの写真はあるか?」
本当に抜群なスタイルな母親かどうか定かではない、と思っていたヒーロー教官は警戒しながらマザコンの男? に声をかける。
「ああ、あるぞ。これだ」
意気揚々としながらハイテンションな様子でスマートフォンを取り出したマザコンの男は、写真をヒーロー教官に見せた。
「――おおっ! これはまた……ごくり」
鼻の下を伸ばしながらスマートフォンに映し出されている画像を食い入るように見ていたヒーロー教官は生唾を飲み込む。
「どうだどうだ! 俺のマミイは良い子にしてくれたご褒美に、美脚に頬ずりさせてくれるんだぞ」
ニマニマしながら嬉々として宣うマザコンの男。
「――マジか! どうりでこんなアングルの写真を取った訳だ」
何かに納得したかのように、眉を顰めながらコクコクと頷くヒーロー教官。
一体どんなアングルで取った写真なのか?
「すまんな。お前のマミイとやらはとんでもない逸材だ。非礼を詫びさせてくれ」
ヒーロー教官は腑に落ちた表情でマザコンの男に謝罪する。
その目はとても尊く見えてしまう程だった。




