9章 闇の綻び 1話
話は遡り、ライト達が商店街での銃撃事件が発生したから一日たったある日の事、スウェーズ地区の辺鄙な廃墟の工場で、陰謀を企てていた者達同士の会合で悶着が起きていた。
「てめえいい加減にしろよ! こっちはてめえがあいつらを意図的に誘導してあの商店街での事件を引き起こしたって事は察しが付いてんだよ! まだリーゼンキルに入って間もない右も左も分からねえ新入りをな!」
薄暗い工場の中で、シャルナに激怒する若い青年。
一メートル九十センチ近い身長に、筋骨隆々の恰幅。
二重の鋭い目、黒髪の長髪で整った顔。黒いジャケットにジーンズを着て、好青年に見えて暴走族に見えるようなギャップがある風貌。
「僕が彼らを籠絡したと? だとしたら誤解がある。僕はただ彼らが銃を提供して欲しいと言われ手渡し最後にこう言った『君達の喜怒哀楽を奪う者は正に民衆だ。だからこそその銃を向ける相手は見定めなければならない。君らに問おう。自由の有権者でいたいか? それとも法の下で跋扈する市民に懐柔されたままでいいのか?」
シャルナは優形に語る。
「何が『君らに問おう』だ。そんな事言えばあいつらが市民を殺すのは目に見えている。俺らリーゼンキルは世間に鬱憤を持った若い集まりだ。今まで軽犯罪で耐えてきたのは、水面下で有名人を殺し続けている事を悟らせないための偽装工作。世界の影に隔離された俺達の怒りを、光の象徴とも言える有名人達を殺し、俺らの存在意義を世界に見せつけるため。それなのにてめえは計画に水を差すだけでなく、リーゼンキルの正体を世間で噂されている怪傑人だとばらしやがった! どうけじめをつけてくれる⁉」
長髪の男は怒りが収まらず、今にでもシャルナを殴る勢いで詰問する。
「そんなに興奮しないで下さいよ。ノアル・インジュンドさん。リーゼンキルのリーダーである貴方が錯乱し発狂すればするほど、他のメンバーが尻込みしてしまいますよ?」
シャルナの背後に居るブランが嫌味ったらしい笑みでリーゼンキルのリーダーであるノアルをおちょくるように宥める。
「黙りやがれ!」
ノアルは興奮した様子で、シャルナの後ろに居るブランを睨みつける。
「君の言い分は理解している。だが、リーゼンキルが怪傑人と匂わせる事で、世間に君達の存在意義とやらを知らしめる端緒になれば良いと思ってね。何事にも水面下で謀略すれば良いと言う訳ではない。諸般の事情はあると思うけど、顕示と言うのは大事だ。そろそろ世間に対してのアプローチを変えるべきではないかな?」
シャルナは大らかに語るが、ノアルはいけ好かない、と言わんばかりな態度でシャルナを睨みつける。
「てめえの御託は十分だ。とにかく、俺達は今まで通りやる。これ以上騒ぎを起こすんじゃねえ」
シャルナに近付き威圧してくるノアルだったが、シャルナは眉一つ動かさず、涼しげな表情をしていた。
そして、ノアルは廃墟の工場を去るためシャルナ達に背中を向け歩いていた時。
「これだけは言っておきますよノアルさん。私達は言わば混成された組織です。貴方達は有名人を殺す役。私達は銃火器を提供する造設者。互いの利害が有名人を殺すとう言う所では一致している。そこに溝を作りはしない。だからこそシャルナさんは、貴方達のためと思った厚意なんです。忖度がある事を忘れないで下さい」
ブランは真摯に訴えかけるが、どこか頬に笑みを浮かばせていた。
「こっちもこれだけは言っておく。次に余計な事をしやがったらてめえらを闇に葬る。分かったな」
野太い声でプレッシャーをかけてくるノアル。
「ああ、善処する事を約束するよ。それともう一つ君に情報を提供しよう」
シャルナは一人だけ静穏な世界にでもいるかのように落ち着いた様子で喋る。
「何だ?」
ノアルは途中で立ち止まり振り向き、シャルナに訝しい目を向ける。
「ライト・ヴァイスとヒーロー教官と言う人物には気を付けた方がいい。彼らは世に言う異能と言う力を有している。これから有名人を殺害し続けて行けば、必ず君らの障害となるだろう」
シャルナの冷静な言葉にノアルは何やら考えている様子だった。




