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1章 悲惨な日常 7話

 今のライトを支えているのはカナリアの存在と、カナリアを()(よう)してあげたいと言う願いの2つ。

 これを失う訳にはいかない。

 ライトは決心を固め、リビアムの横にフラフラとした足取りで移動する。

 「――今までの非礼と愚行をお詫び致します。(せん)(りょ)な私が間違っていました。どうかお願いします。退学だけは、退学だけにはしないでください……」

 むせび泣きながら、必死にリビアムに向け頭を下げ、(こん)(がん)するライト。

 それを見下げるリビアムは唐突に鼻で笑う。

 「謝罪にしては中々の弁舌じゃないか。君は(きょう)(じゅん)な姿勢が似合うのかもしれない」

 リビアムは頬に不敵な笑みを浮かばせていた。間違いなくその言葉はライトを同じ人間として見ている者の発言ではない。

 ライトはそれが分かっていても、嗚咽を漏らすしかなかった。

 心の中でも、悔しく、悲しく、情けなく、辛く、どれだけの負の感情がライトの心を蝕んでいたか、リビアムは知ろうともしなかった。

 「まあ、私も悪魔ではない。君がそこまで言うのなら、退学の件は保留としよう。だが次に問題を起こせば、今までの君の不祥事を会議の場で公表し、君を退学にするようにと校長先生に申し出るつもりだ」

 リビアムは落ち着いた声で淡々と話す。

 「……分かりました」

 未だに、むせび泣きながら喋るライト。

 「とにかく君は、今いる生徒達が下校した(のち)、全ての校舎の清掃と、明日から一カ月の間は停学処分が決まった。停学中は不必要な外出は出来ない。それから必ず毎日、市のボランティア活動をする事だ。明日は朝八時から(いばら)公園のゴミ拾いだ。そこの班長の男性の指示に従え。ただし、一つでも守れなかった場合は、言わなくて分かるだろう?」

 「……はい」

 嫌味な口調で語るリビアムにライトは啜り泣きながら返事を返した。

 約束を1つでも破れば、即退学と言う事はすぐに理解したライト。

 「とにかく、他の生徒達が授業を終えるまで君はこの場で待機だ。それと、君が重傷を負わせたルメオン君と殴られたクリア君だが、彼らは君を訴えはしないそうだ」

 そのリビアムの言葉を聞いたライトは驚き「えっ?」と思わず口にする。

 「大勢の寛大な者達に支えられ、君は恵まれているな」

 涼し気な表情でリビアムはそう言うと席を立ち、ドアの方へ向かって行く。

 だが、ライトの中で、何故自分を訴えないのか、と言う疑問だけが脳裏に浮かぶ。

 「それにしても、(きょう)(かく)()(どう)の男とは大層な二つ名だな。君もそうは思わないかね?」

 リビアムはドアノブを手で握りながら、ふとそう言った。

 「……何の事です?」

 ライトは自分の父親に向けられた愚弄の発言だと言う事はすぐに察したが、敢えて知らないふりをし、リビアムの言葉の続きを引き出そうとした。

 「君の父親の話だ。嘗ては富も名誉も欲しいままにしてきた英傑の男の子供が、こんな粗末な阻害品とはね。その親であるヴァン・ヴァイスもまた汚濁な心を持った愚民だったと言う話だ」

 冷ややかな声でリビアムに憧れであり大切な存在を冒涜されたライトは怒りが込み上がってきた。

 そして、上体を起こしリビアムを睨みつける。

 「何だねその目は?」

 振り返るリビアムもまたライトに炯眼の眼差しを向け威圧する。

 「……いえ、何でもありません」

 威圧するリビアムに対し、また退学を言い渡されたら、と思ったライトは寸前で怒りを抑え唇を噛みしめる。

 「身の程をわきまえろ。更生が無理なら自戒してでも他人に迷惑を掛けるな」

 最後に冷たい言葉を吐き出すように言ったリビアムは生徒指導室を後にした。

 ライトはその場で苦渋を飲みこむ。

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