8章 大差 15話
ライトは不甲斐ない自分を改めて思い知らされたかのように消沈してしまう。
「では私はこれで。怪傑人による蛮行を早期解決する事を切に願う。この体たらくではそれも望み薄だがね」
全員に冷たく接するリゼロは最後に鼻で笑い、バーを後にした。
外に出るまで、再びリゼロに向け敬礼するキャンディー達。
ミリイは今にも泣きそうな表情だった。
「おい、大丈夫かミリイちゃん?」
ラーシュはリゼロが去ってから、すぐにミリイを気に掛ける。
「うん、大丈夫」
ミリイは覇気の無い声でそう答えるが、恐怖と怒りで内心、擾々(じょう)していた。
「ありがとうございます。レイジックさん。お陰で助かりました」
ミリイが誠意を込め、感謝の言葉を口にする。
「気にするな。あんな掃き溜めの手、腐るほど相手にしてきたからな」
レイジックはミリイに気を遣わせないように、冷静に口にする。
「あいつにも困ったもんだな。あれじゃ殆ど職権乱用だ」
タルヴォは憂鬱になったような表情でぶっきらぼうに語る。
「なあ、今の告発してやればいいんじゃね? 俺ら全員は証人なわけだし」
ラーシュは胸糞悪い表情で自棄になりながら語る。
「無理だな。権力で真実は幾らでも上書き出来る。どれだけ確証を得てもな。ましてや相手は警視庁の最高幹部だ。そんな奴の発言の信憑性は高い。俺らはただの貴人に逆恨みを持つ哀れな愚者として後ろ指を指されるのが落ちだ」
冷静に語るレイジック。
「ああやんなるぜ。しかも何が怪傑人を軽視してるだだか。リーゼンキルの摘発や逮捕にすら踏み切らないくせに。あんな変態が夢をつかんで局長の椅子に座っていると思うと、反吐が出るぜ」
鬱憤を吐き捨てるラーシュ。
それは全員が同じ思いだった。
「まあ、スポーツ以外の夢なんてのは、大抵、コネや金と学歴さえあれば誰でも手に出来る。夢の三大法則みたいな物だ。覚えておけ」
タルヴォが老獪染みた経験を淡々と語る。
「やだやだ。夢が安いんだか、腐ってるんだか」
ラーシュはうんざりするような面持ちで口にする。
「すいませんミリイさん。何も力になれなくて」
ライトはミリイの近くに歩み寄り、暗い面持ちで憂慮する。
「気にしなくて良いよ。いずれ私がぶっ飛ばすから」
ミリイは健気にそう言うと、握り拳を作り、眉に力を入れる。
「そ、それは心強いですね」
ライトは、最程ラーシュが言っていた、五人の痴漢を素手で無力化した事を思いつき、今のミリイと鑑みると、思わず物怖じしてしまう。
「それにしても、今の人は誰なんです?」
「あいつは警察庁のトップ、リベロ局長だ。ちなみにあいつは俺やヒーロー教官と同じく小学生からの因縁の中だ。昔から親の権力や地位を見せびらかして親玉の大将気取りだった」
「そうだったんですか」
ライトの素朴な疑問に、タルヴォは怠そうな表情で語る。
新たな真実を知ったライトは、鳩が豆鉄砲を食ったよう表情で驚く。
「すまないライト君。見苦しい所を見せてしまって」
キャンディーがライトの元に寄り、誠意を込めた謝罪をする。
「いえ大丈夫です。良い社会勉強になりましたし」
ライトは穏和な様子でキャンディーに気遣わせないようにする。
「ははっ、肝が据わっているな。君は」
キャンディーは微笑すると、落ち着いた面持ちで語る。
「そろそろ行くぞタマゴ。この後も奉仕活動だ」
「え、あ、はい!」
ヒーロー教官は怒気が現れた顔つきで、ライトを呼ぶ。
まだリゼロに言われた事を根に持っているようだ。
そこで、一人一人がライトとヒーロー教官に別れを告げ、二人も返事をすると、ボッチーマンのバーを後にした。
何故かレイジックだけがヒーロー教官の近くにまで歩み寄り見送ったのは疑問だっがが。
ヒーロー教官はいつもの調子が出て来ず、飄々(ひょう)とした態度でキャンディーに明るく接する事が出来なかった。
ここまでお読み頂き、又、評価などして下さった読者の皆様方、本当にありがとうございます。
8章「大差」はここで終わります。
長文になり申し訳ございません。
次章からも更新していきますので、是非ご一読して見て下さい。
よろしくお願いします。




