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8章 大差 13話

 「事の経緯はどうであれ、ラーシュさんの志は素晴らしいです、感服しました」


 ライトは目を輝かせながら、道徳のあるラーシュを敬愛する。


 「あんがとな。やれやれ、世の中のガキんちょ達も、ライト君見たいに他人を尊重した人格者にならないもんかね?」


 「アッハハハ。ラーシュ君が尊重されるって。アハハハ!」


 壺にでもハマったかのように高笑いするミリイ。


 ラーシュはその様子を唇を尖らせながら見る事しか出来なかった。


 「キャンディー所長の計らいで何とかなりませんか?」


 一方、キャンディー達の食卓では(かい)(けつ)(じん)による会議が行われていた。


 レイジックが鋭い眼差しでキャンディーに(こん)(がん)する。


 「私からも再三、リーゼンキルの一斉捜査を要請しているが承認されないのが現状だ。リゼロ局長もそうだが、政府が子供保護の主義から犯罪の対象へと(へん)(せん)させない限り、瓦解する事すら困難だ」


 キャンディーが食後のコーヒーを口にしながら、淡々と語る。


 「とは言っても、今になって局長や政府の人間の心を変える事がどうやったら出来るのやら」


 タルヴォは渋い表情で、辟易と語る。


 「お前ら、あんまりキャンディーちゃんを困らせるなよ。キャンディーちゃんは言わばパイプ役だ。部下や上司から挟み撃ちに文句や信任ばかり押し付け続けられたら心を壊すぞ」


 「たく、こんな時に真面(まとも)な事言いやがって」


 ヒーロー教官がやれやれ、と言わんばかりに仲介すると、タルヴォはぶっきらぼうに答える。


 「所長。既に(かい)(けつ)(じん)の犯罪は世間で(かん)(れい)しつつある。この件を長い目で見ていたら後で取り返しのつかない事になりますよ」


 レイジックは諦めず、懸命にキャンディーに申し立てる。


 「レイジック(くん)(きみ)が悪に対する並々ならぬ憎しみを向ける理由は私も理解している」


 キャンディーが落ち着いた様子でそう言うと、タルヴォを一瞥する。


 タルヴォはコーヒーを啜りながら黙って聞いていた。


 「刑事が(じん)(そく)()(だん)で事件に対処するのは常ではあるが、時には(ちん)(ちゃく)になり盤面を図らなければいけない時もある。性急にこの事件を追えば、必ずしっぺ返しに()う」


 冷静に口にするキャンディーにレイジックは納得がいかない面持ちだった。


 「しっぺ返し()うと言うのは(かい)(けつ)(じん)からですか? それとも政府に? それとも」


 「――よせよレイジック。お前の発言には()(びゅう)がある。所長でも今の状況をどうにも出来ないのが現状だ。沈着でいろと言うのは下手に手を出したら、犯人の思う壺でもあり、命令に背き、上層部から()(せん)されるか、最悪の場合は違反者として失職し、刑務所行きだってないわけじゃない」


 タルヴォは物腰が柔らかい喋り方でレイジックを落ち着かせる。


 すると、レイジックは俯き、大きく深呼吸をする。


 「……すいません。自分が早計でした」


 「いや、気にする事は無い。私も事の経過を進展させるため引き続き尽力しよう」


 キャンディーが俯いているレイジックにひたむきな姿勢で胸の内を伝える。


 「おおー。この()はいいなあ。尻も胸も大輪の評価に値する。ムシシシッ」


 レイジック達が深刻な話をしている横で、ヒーロー教官はアダルトサイトにご熱中のようだった。


 下劣な笑みでちょっと独特な自己評価をしている。


 ライト、ミリイ、ラーシュを除いたレイジック達は呆れて大きなため息を吐いていた。

 

 「コホン。とにかくだ。レイジック君。今度からは犯人は拘束する事を優先してくれ。ボッチーマン、並び光を照らす(ライトイルミネイト)は悪の心を撲滅する事を旨とした組織だ。前回のように無抵抗の相手を銃殺するような言動は慎んでくれ。いいかね」


 軽く咳払いをし、落ち着いた様子でキャンディーはその心情を語る。


 「……はい」


 レイジックは俯きながら気の抜けた返事をする。


 「タルヴォ刑事。貴方はこの組織の中でもベテランだ。皆の士気の調整や順守を厳守させるなどにも徹してくれ。()(へい)する役割ではあるがよろしく頼む」


 「了解しました」


 キャンディーの淡々とした指示に(ちゅう)(ちょ)なく真剣な眼差しで首肯するタルヴォ。


 そんなすぐ近くで、ヒーロー教官は気に入った女性を目にしては、卑猥な笑みで画像を保存したり、ズームにして見るなど、好き勝手にしていた。


 すると、ライト達が食べ終えた食器を手にしながら雑談してガディアの所に向かっていたその時。


 カラン、カラーン。


 バーの玄関であるドアベルが鳴りながら、一人の男性が入ってきた。


 中年で肥満体形の男。


 脂ぎった皮膚に、お世辞にも容姿が良いとは言えない不細工な顔に見合わない高級なグレーのスーツを着ていた。


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