8章 大差 12話
親が病に罹り、働けなくなった家庭は、選択肢に限りがあり、また家計もジリ貧でやっていくしかない。ライトにもそれはよく分かっていた。
「ああ、ごめんね。こんな気鬱な話しして。でも私、光を照らす(ライトイルミネイト)に配属されて良かった、て今は思ってるんだ。なんせ頼れる仲間に出会えたから」
ライトを消沈させた事に若干焦りながら、心根を口にするミリイ。
先程よりも随分明るくなっていた。
そしてレイジック達に暖かい目を向けるミリイ。
どうやら本当に、光を照らす(ライトイルミネイト)に着任した事が、今となっては順風満帆とは言えないが、誇示出来るぐらいではあるようだ。
「そうですか。僕もいつか、ミリイさんに誇れる自分を見て貰える日が来るように精進します」
ライトはミリイに真っ直ぐな目を向け、深い尊敬と憧れの思いを持って口にする。
「うん。待ってる。頑張れ男の子」
ミリイはお姉さん口調で、最後に人差し指を前に出しグルグル回しながら笑顔でウインクする。
するとそこに。
「でもライト君。ミリイちゃんを尊敬するのも程々にしといた方がいいよ。こう見えて、光を照らす(ライトイルミネイト)のメンバーの中じゃ剛腕刑事だから」
ラーシュが皿に乗ったホットケーキとフォークとナイフを手にしながらニヤニヤした面持ちでライト達の前に現れた。
「ちょっと止めてよその言い方」
むくれた表情でプンプン怒るミリイ。
「ほんとの事だろ。二日前なんて痴漢していた筋骨隆々の五人の男達を素手で無力化したんだから。宛ら新進気鋭のK1ファイターだぜ」
ラーシュは意地悪そうな笑みでミリイをそう評価する。
それを聞いたライトは目をひん剥いて「え!」と驚愕する。
「んもう」
ミリイは頬を膨らませながら頬を紅潮させる。
「ハハハッ。あ、隣いいかライト君?」
「はい。どうぞ」
ラーシュはおちょくるように笑うと、ライトに一声かけ隣に座る。
「んじゃここからは俺様の武勇伝に付いて語ろうか」
親指を自分に差しながら得意気になるラーシュ。
「えー。いいよそんな話。と言うか自分にそれを語れるほどの功績なんて無いでしょ?」
ミリイは辟易としていた。
「何言ってんだよ。俺ほど未来永劫に労われ称賛される男なんてそうは居ないぜ」
ミリイの不満に不貞腐れたラーシュは、すぐにけろりとした表情で自画自賛する。
「そう言えば、ラーシュさんはどう言う経緯で警察官になったんですか?」
ラーシュの天真爛漫の性格からどう言う理由で警察官になりたかったか、その動機が気になったライトは、思った事をそのまま口にする。
すると、ミリイはラーシュの虫に毛が生えたぐらいのどうでもいい武勇伝より聞くのはましだ、と思ったのか、冷静になりながらホットケーキを口にする。
「まあ色々あってな。実は昔、俺には前科があったんだ」
「えっ!」
ラーシュは、感傷に浸るような表所でホットケーキを見つめる。
ライトもまさか前科があるとは思わず、驚愕する。
「やーい。親不孝者ー。」
ミリイは意地悪そうな笑みでラーシュに野次を飛ばす。
「うっせ」
振り払うように投げ遣りの言葉を口にするラーシュ。
「でも、前科があれ何であれ、今は立派に刑事の仕事をしていますし、万事解決で良いんじゃないんですか?」
ライトは実直な言葉を真剣な表情で語る。
「そう言ってくれてありがとな。どこかの誰かとは大違いだぜ」
「うっさい」
今度はラーシュがニヤついた笑みでミリイに視線を向けると、ミリイは不貞腐れた表情で一括する。
「そのう、差し障りない程度で良いですので、ラーシュさんはどうして光を照らす(ライトイルミ
ネイト)に所属しようと思ったのですか?」
素朴な質問をするライトの横でホットケーキを美味しそうに頬張っていたラーシュは、勢いよく飲み込む。
「おお。やっぱり聞きたいか。まあ、理由としては不甲斐ないもんだよ。ガキの頃は傷害事件や万引き、女遊びに無免許運転と馬鹿な事してた。でもその悪行を積んできたせいで、等々、親がその責任を負うために仕事をクビになったんだ」
「……そうだったんですか」
ラーシュが過去の経緯を珍しく内気に語っていくと、ライトは言葉が上手く出て来ず、簡略的な返事しか出てこなかった。
「その時になって初めて気付いたんだ。親に食わしてもらっている有難味に。ようやくそれを噛みしめた時には遅かった。だから後悔した分、少しでも俺みたいな馬鹿を増やさないために、何より両親に胸を張って生きて行ける俺を見て貰いたかったからこの仕事に就いた」
「おー。ラーシュ君が初めて真面に見えるー」
「うっせえ。茶化すな」
ミリイは棒読みの声音で拍手しながらそう言うと、ラーシュは半ギレする。




