8章 大差 10話
ミリイ以外は大きなため息を吐き俯く。
ヒーロー教官はどこに居ても大抵はマイぺースなのである。
マイペースと言っても話の論点を百八十度も変え、品格ゼロの発言や表現を物ともしない変人ではあるが。
「まったく。ヒーロー教官。これあげますからもうそんな下品な表現と発言はしないでください」
ガディアはいつの間にか調理していたホットケーキを、呆れながらヒーロー教官のカウンターの上に置く。
すると、ヒーロー教官は狙い通り、見たいな下卑た笑いで両手を擦りながら、満足気にナイフと―フォークを使いホットケーキを頬張る。
「さあ、皆さんも一息つきましょう。あまり根を詰めても事態が良好になるわけではないんですし。人間、休息と糖分は何よりの精神安定剤ですよ」
ガディアは清涼な面持ちで、皿に乗ったホットケーキを皆の前に運んでいく。
「わあ。ありがとうございます」
ミリイは満面の笑みで受け取る。
「バターにパセリを混ぜ、ホイップクリームにもチーズクリームを混ぜました。また、蜂蜜には磨り潰したイチジクを練り合わせ隠し味にムースを入れて見ました。是非ご賞味ください」
ガディアが紳士的な振る舞いで説明しながら全員に配り終えた頃には、バーの中は甘い香りで充満し、その匂いだけでも心が癒され飽和されそうだった。
「この年でおやつにホットケーキってのも、どうなんだ?」
年配者であるタルヴォは渋い表情で運ばれてきたホットケーキと睨めっこをしていた。
自分の年に見合った食事かどうか、熟考しているような感じ。
「何言ってんだよ。こんな事で年相応かなんて考える必要はねえんじゃねえか? こう言うのは本能のままに捉えればいいんだよ。ヒーロー教官を見て見ろよ。あれぐらい奔放で居た方が人生得するぞ」
レイジックは物腰良くタルヴォに助言する。
「そんなもんかねえ」
タルヴォは気の抜けた返事で、見本としてヒーロー教官に視線を向ける。
だが、ヒーロー教官はお世辞にもマナーが良いとは言えない食べ方をしていた。
切ったホットケーキをグラスに入っている牛乳に浸し、それを啜りながら口にする。
ズルッ、ジュルルッ! グチュグチュ。
勢いよく啜るものだから、品の無い音を立てながら咀嚼してしまうヒーロー教官。
しかも、食べかすが口元に付いていても、グラスに入っている牛乳に口をどっぷりつけ、食べかすを洗い取るようにすると、口元にベッタリと付いた牛乳を舌で、三百六十度舐めまわし拭き取っていく。
そして、最後にはご満悦の笑みを浮かべる。
「……やっぱりある程度、人格に品がないとな」
「ちげえねえ」
はっきりとは視認できなかったが、一連の動作だけで大体事態を把握したレイジックはその光景を、眉を顰めあんぐりした表情で見ながらそう言うと、タルヴォも似た面持ちで呆れながら口にする。
以上が、反面教師にせざる負えないヒーロー教官の食事マナーだった。
すると、ふいにお酒が置いてある棚が機械的な音を立てて、ゆっくりと棚にあるお酒を乗せながら、片開きで開いていく。
ボッチーマンのオフィスに繋がる隠し扉だ。
そこからキャンディー所長が静かに現れた。
すると、光を照らす(ライトイルミネイト)のメンバー達はすぐさま立ち上がり、キャンディー所長に向け敬礼をする。
ライトもどうしたらいいものか? と困惑しながら思案すると、ついレイジック達につられて敬礼してしまう。
「そう固くならなくて大丈夫だ。食事を楽しむといい」
キャンディーはライトに優しく声をかけると、「皆にも要らぬ気を遣わせてすまない。自然体で居てくれ」と物腰良く光を照らす(ライトイルミネイト)のメンバー達にそう口にする。
「所長もどうです?」
ガディアはお皿に乗った特製ホットケーキを笑顔でキャンディーに見せつける。
「せっかくだ。ご相伴に預かろうか」
キャンディーも笑みを浮かべガディアからホットケーキを受け取る。
ガディアの中ではかなりの自信作のようだ。
「そうだライト君。せっかくだから向こうで一緒に食べよう。現役高校生の生活がどんなのか聞きたいし」
両手でホットケーキとナイフとフォークを手にしながら椅子に座っているライトに興味津々で聞いてくるミリイ。
「はい」
特に断る理由も無かったライトは二つ返事で返答する。




