8章 大差 7話
そこから三十分程してライトの事情聴取が終わった。
「なるほどな。ヒーロー教官の証言と矛盾している点はないし、大方その電話の主はゲーム感覚であの商店街での事件に関与、いや、現場を指揮していたわけだ」
ダイニングチェアの椅子に背もたれながらタルヴォが渋い表情で人差し指と親指で顎を摘まんでいた。
ヒーロー教官の証言の裏を取るためでもあるライトの事情聴取にレイジック達も異論は無かった。
ライトは、タルヴォとレイジックの正面に座りながら過去の話を沈鬱な表情で語っていた。
それをカウンターチェアの椅子に座りながらライト達に身体を向け、居た堪れない表情で黙って聞いていたラーシュとミリイ。
「だとすると、シャルナって奴の一存であの商店街の事件が起きたとは一概にも言えないってわけだよな。だって実際にヒーロー教官が電話の主が自分が現場監督、だなんて言ってたわけだし」
ラーシュはウイスキーを口にしながら眉を顰め推測する。
「だが、その電話の主が指揮していたのはあくまで商店街での銃撃事件に付いてだけだっただけで、実際、これまでの怪傑人の犯行を指揮していたかどうかは定かではない」
レイジックが資料を片手に思案顔で推測する。
「現段階では商店街での電話の主か、シャルナと言う人物のどちらかが怪傑人の主犯かどうか分からない、と言うのが現状ですものね」
ミリイもライト達に身体を向けながら難しい顔をしていた。
「あのう。この前の商店街の銃撃事件の犯人達の正体は、やはり怪傑人だったんですか?」
かしこまりながら思った事を口にするライト。
ライトは、まだ商店街での銃撃事件の犯人達の正体が分からないままだった。
「いや、それはあくまでも世間が囃し立てている人物を指す言葉であって、実際の奴らの正体はリーゼンキルの連中だと、俺達はそう睨んでいる」
「――えっ、どう言う意味です?」
落ち着いた様子で語るレイジックの言葉に、怪訝な面持ちを浮かべるライト。
「有名人を殺害し続けている奴らを民衆が怪傑人と呼称しているだけであって、実際の所、犯人達の正体は有耶無耶なままだった。この前も自分を怪傑人と口にしたシャルナの言葉は、俺達から真の犯人像を模糊させるのが狙いの一つだと思った。だが、半月程前、俺達を襲撃した覆面を被った人物達が、リーゼンキルのメンバーだった事が分かった。そこからある憶測が浮かんだ」
半月程前、タルヴォ達が居たボッチーマンの隣にある株式会社を襲撃してきたのは、ギャング集団のリーゼンキルであった事が判明していた。
襲撃しに来た覆面達は、五人共男性の子供で前科があった。
その当時の五人が、軽犯罪の時に拿捕され、事情聴取をした時に詳らかに調べた結果、リーゼンキルのメンバーだった事が判明した。
五人の男子の平均年齢は一六歳。
「リーゼンキル? 半月ほど前の襲撃?」
タルヴォは淡々と懇切丁寧に説明しようとしたが、ライトは話に付いていけず、困惑気味だった。
「待てタルヴォ。こいつはリーゼンキルも半月程前の襲撃事件も知らんぞ。ニュースを見る習慣がないものだから、スマホを手にしたとしても、見ると言う概念がない」
ヒーロー教官はライトが何も知らない事を知ると、今までのライトの不遇と現状を鑑みて、一早く理解し、タルヴォにぶっきらぼうに説明する。
「ああ、そうだったのか。そいつはすまなかったな」
「いえ、事前に調べなかった自分が悪いだけですから。こちらの方こそ申し訳ありません」
後頭部をポリポリ掻きながら、タルヴォは陽気に謝罪をしたが、真に受けていたライトはタルヴォに謝罪させた事に申し訳なく思い、少し慌てながら非を詫びる。
「じゃあライト君。まずはリーゼンキルに付いてから説明するね」
そこでミリイは丁寧にリーゼンキルと、半月程前の株式会社に襲撃してきた人物に付いて詳細を口にした。
説明から約五分後。
「そうだったんですね。それで皆さんに怪我とかは無かったんですか?」
説明を聞き終えたライトは半月程前に襲撃されたタルヴォ達の身を案じる。
「ああ。俺達の中で負傷者は一人も居ない。レイジックが一人残らず蹴散らしたからな」
ラーシュは得意気に語っていた。
「なんでラーシュ君が威張るの」
むっくりさせた頬でラーシュに横目を向けるミリイ。




